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プロローグ ―少女達の友情―
「大人ってさ、ちょろいよね」
放課後、人気のなくなった教室。縦に並んだ机の1つを挟み、1人が前の席から振り返る格好で、2人の女子高生が話している。2人とも何重にも折り返したプリーツスカートを履き、シャツの第2ボタンの間からお揃いのネックレスをちらつかせている。
「ちょろい?」
「ほら、こないだの英語の授業。あたし課題やるの忘れちゃってさ。でも、ごめんなさい次絶対出しますって先生に泣きついたらあっさり許してくれて」
「そうなの? いいなー沙絢は。ユイなんか放課後残ってやれって言われたよ」“ユイ”が頬を膨らませた。
「ユイはさ、下手なんだよ。理由聞かれたら正直に忘れてましたって言っちゃうでしょ? それじゃダメなんだよ」“沙絢”がさもわかったように言った。
「じゃあどうすればいいの?」ユイがむくれながら尋ねた。
「とりあえず怒られそうになったら先に謝っちゃうこと。先生ごめんなさいもうしませんって言って、思いっきり反省してますって態度見せるのがコツ。そんだけ反省してるなら許してやるかって気になるでしょ? そしたら今度は相手を褒めまくるの。先生優しいありがとう大好きって。お世辞だってわかっても嫌な気はしないじゃん?
で、1回可愛い奴だなって思ってもらえたらもうこっちのもの。他の先生に怒られてる時とかも味方になってくれるんだよ。まぁまぁ先生、こいつも反省してますからそれくらいにしときましょうよって。簡単だよ?」
「えー、そんなんでホントに上手くいくのぉ? それ、沙絢だから出来るんじゃない?」ユイが懐疑的な声を上げる。
「ユイだってやれば出来るよ。あたしと同じようなキャラしてるんだから」
「うーん、そうかなぁ? ユイ、沙絢みたいに上手く出来るかなぁ……」
「大丈夫だって。ユイは笑ったら可愛いんだから。その顔、使わなきゃ損だよ?」
「そっかぁ。確かに沙絢、いろいろ得してるもんねぇ」
ユイは感心した顔で頷いた。友人のアドバイスに心から納得しているように見える。
「でもさ、たまにちょっと怖くなるんだ」沙絢が頬杖を突きながら言った。
「こんなに何もかも上手くいっちゃっていいのかなって。そのうちすっごい悪いことが起こるんじゃないかって」
「えー、沙絢に限ってそんなことないよぉ。沙絢友達多いし、先生にだって気に入られてるじゃん?」
まぁね、と沙絢はまんざらでもなさそうに言うと、カールした髪を指に巻きつけた。思いつきで言っただけで、本気で心配しているわけではなさそうだ。
その後も2人はお喋りを続けた。芸能人のこと、新作のコスメのこと、友達のこと、恋愛のこと。いくら話しても話題は尽きない。他愛もないことで笑い合って、また明日と言って別れる。そんな日々がずっと続くものと思っていた。
卒業しても就職しても、結婚してもおばあちゃんになっても、自分達の友情が終わることはないのだと信じていた。
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