1 雄弁はシルバーというが

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1 雄弁はシルバーというが

 身を打つ雪の礫は激しさを増して、一歩進む毎に雪が絡みつき重みを増す。山の地形に歪められた地吹雪は、女の悲鳴のような甲高い音を響かせて荒れ狂う。  前後左右など分からない。どれほどの道程を踏破したのかも分からない。握ったロープの先にはリードする相棒がいる筈だが、ホワイトアウトした視界の中では姿を確認できなかった。軽くロープを引けば、向こうも同様に引き返す。 『大丈夫だ。ここに居る』  言葉も声も無いが、相棒の確かな存在感が雪に弱り果てた心を鼓舞する。アイゼンを噛ませて再び歩み始めたその時、轟と一際強い風が谷底から吹き上げて、二人は身を竦めた。  雪雲は風に穿たれ、蒼空が覗く。陽光に灼かれた真っ白な世界に、ほんの一瞬、凛と煌めく銀色の光を見た気がした。何かが頭上を飛び去る気配に空を仰げば、雲間から降りるいくつもの光の梯子を縫うように巨大な竜が空に遊ぶ。  雷の轟きの如き咆哮を上げて蒼空に飛び去る白銀の威容。風の神と崇拝される銀竜の勇姿だった。
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