かぐや姫の決意

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かぐや姫の決意

「姫菜はなぁ――。顔は抜群にいいんだけど――。モデルをするには身長が足りないし、歌はダメ、演技もダメ。今年でもう25だろ?そろそろ潮時かな――」  地方都市に住んでいる普通の女子中学生だった私が東京へと遊びに来た時、俗に言うスカウトってやつで猛烈に芸能界入りをプッシュしてきた翁田社長が事務所のスタッフとそんな事を話しているのを物陰からこっそり聞いてしまった。  え?まじで?確かに最近仕事量減ったと思ってたけど、私ってもう消費期限切れかけなの?  え?え?やばくない?私、どうなるの?  冷や汗が滴り落ちる。  14歳で芸能界に入って、”1万人に1人の逸材”だなんて大層なキャッチフレーズで売り出され、瞬く間にスターダムへとのし上がった私。  神楽姫菜。25歳。一番お仕事で忙しくしていた時は名前をもじって「なよ竹のかぐや姫」といわれ、そのルックスで一世を風靡した。  あぁ、あの頃は良かったな……。なんて、恍惚と回想しながら過去の栄光にすがっている場合じゃないよ、姫菜!あんなに推してくれてた翁田社長から潮時って言われたんだよ?!どうするよ。確かに私は身長153センチと小柄だ。モデルには向いてない。歌も音痴でリズム感がない。演技も、どんな役をしたってどうしても棒読みが抜けないし、同じ感じにしかならない。  分かってた。薄々と気付いてた。自分には顔だけだって。勘付いてた。  だけどさ、まだ14歳だった私や私の両親の神輿を担いで芸能界入りさせたのは翁田社長じゃん。翁田社長に言われるがままここまで頑張ってきたんじゃん?それを、ちょっと色々上手くいかないからってそろそろ潮時だなんて……。ひどくない?!  事務所の片隅でしゃがみこんで打ちひしがれている私は絶望感でいっぱいだ。その姿は自慢の長い黒髪が相まって貞子もびっくりだろう。  翁田社長も事務所だって私のおかげで少しは良い思いしたんじゃないの?!私、これでも事務所1の稼ぎ頭だよ?!  ちくしょう。こうなったら――。  婚活してやる!結婚して芸能界を電撃引退してやる。  そうだ。花は散り際が一番美しいんだ。私だって一番美しい時にきっぱりさっぱり引退して、この際私から翁田社長を見切ってやるんだから。  私は立ち上がり、鼻息荒くスマホに入っている連絡帳を開いた。
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