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 それは小学生の頃の記憶だ。親父が営む仕立て屋はモノレール駅のそばにあった。親父もお袋も店が忙しくてモノレールには乗せてもらえなかった。だけど、店の二階の窓からモノレールを眺めるのが好きだった。  レールにぶら下がり、走行する車体は空を飛んでいるようで、見てるだけで胸がわくわくした。  モノレールがポートタワーのある千葉みなと駅まで延びた年、親父が「日曜日にポートタワーに連れて行ってやる」と言い出した。  日曜日は店の営業日だった。店はどうするのかと聞くと、「直くんの10歳の誕生日だから特別に臨時休業にするのよ」と嬉しそうにお袋が言った。  絶対にうちはポートタワーに行かないだろうと思っていたから、びっくりした。 「本当に日曜日に連れてってくれるの?」  親父を見ると僕の頭を乱暴に撫でて、「ああ、連れてってやらあ」と言った。 「モノレールも乗っていい?」 「乗せてやらあ」  調子よく言った親父の言葉が嬉しくて飛び上がった。  じっとしていられないぐらい嬉しかった。
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