25人が本棚に入れています
本棚に追加
それは小学生の頃の記憶だ。親父が営む仕立て屋はモノレール駅のそばにあった。親父もお袋も店が忙しくてモノレールには乗せてもらえなかった。だけど、店の二階の窓からモノレールを眺めるのが好きだった。
レールにぶら下がり、走行する車体は空を飛んでいるようで、見てるだけで胸がわくわくした。
モノレールがポートタワーのある千葉みなと駅まで延びた年、親父が「日曜日にポートタワーに連れて行ってやる」と言い出した。
日曜日は店の営業日だった。店はどうするのかと聞くと、「直くんの10歳の誕生日だから特別に臨時休業にするのよ」と嬉しそうにお袋が言った。
絶対にうちはポートタワーに行かないだろうと思っていたから、びっくりした。
「本当に日曜日に連れてってくれるの?」
親父を見ると僕の頭を乱暴に撫でて、「ああ、連れてってやらあ」と言った。
「モノレールも乗っていい?」
「乗せてやらあ」
調子よく言った親父の言葉が嬉しくて飛び上がった。
じっとしていられないぐらい嬉しかった。
最初のコメントを投稿しよう!