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明け方、妻の陣痛が始まった。
結婚して五年、僕にとって初めての子どもだった。妻に妊娠を打ち明けられた日、嬉しさよりも恐怖を感じた。妻に「良かった。テーラー高橋の三代目誕生だ」と言いながら、不安で堪らなかった。
子どもは望んでいたが、積極的に欲しい程ではなかったし、妻と二人だけの生活に僕は満足していた。
しかし、せっかちな親父に「テーラー高橋の跡取りはまだか」と煽られ、妻にも「そろそろ子どもが欲しい」と言われてしまった。
妻に子どもが欲しいと言われればもう逃げる訳にはいかず、子作りに励んだ。そしてめでたく妊娠となった訳だ。
だが、日に日に大きくなる妻の腹と比例するように恐怖がどんどん大きくなった。健診の度に妻がお腹の子のエコー写真を持って帰ってくるが、目を逸らしたくなってしまう。
僕には親になる資格がない。
なぜそう思うのか。ずっと考えていた。
そして一つの記憶にたどり着いた。
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