10人が本棚に入れています
本棚に追加
「美智子ぉぉぉ!!!!」
俺は腹の底から巫女の名前を呼んだ。
小汚い鳥居の後ろで炎が赤赤と燃え上がっている。
雪が降り、風が強いこの寒空の下で炎は燃えている。
野ざらしなのに、消える気配はない。
その大きな炎のそばに巫女はいた。
そして夢花も……。
彼女は2人の黒ローブに肩を掴まれている。
「政宗くん……元気そうですね」
「まあな!」
「兄さんは……死んだのですか?」
「ああ、殺したよ。そしてお前も殺す」
「マサくん……嘘……生きてたんだね!」
夢花は涙をポロポロと流しながら俺の生還を喜んでくれた。
俺は片手をあげて、笑ってみせる。
「今助けてやるからな!待ってろ!」
「うん……うん!」
「……本当に逞しくなりましたね、政宗くん」
巫女は夢花を抱き寄せた。
彼女は手を後ろで縛られているらしく、抵抗は出来ないようだ。
「撃てますか?私を」
「残念だぜ巫女様、あんたそんな小物臭いことしないと思ってたんだがな」
「買いかぶりすぎですよ、私は出来ることをやるだけです」
「殺せねぇだろあんたには。ここまでやったこと全部無駄にする気か?」
「ええ、本当に残念です。ですが生きていればまた夢を叶えられる……そうでしょう?政宗くん」
「やっぱり残念だよ、あんたも命が惜しいのか?」
「どうでしょう……ですが死んでしまってはどうしようもない。もう1度挑戦する機会もなくなります。でしょう?政宗くん」
「そうだな、なかなか前向きな女じゃないかあんた」
巫女はクスリと笑った。
俺は手に持った拳銃をじっと見つめる。
「美智子……もうやめてくれ。神などいないのだ、お前も分かっているはずだよ」
「……ごめんね、お父さん……神様はいるよ、私が世界を変えるんだ。私も兄さんもお父さんも……ずっと辛い思いをしてきた。それにみんなもだよ。みんな怯えてるだけなんだ。怖くて怖くてたまらない……だから人に意地悪しちゃうの。そんなの悲しいじゃない?私は嫌だな……」
「美智子……」
「なあ巫女様」
「なんですか?」
「あー……別に。呼んでみただけだ」
「ふふ、そうですか」
「あんた、俺たちを殺すんだろ?」
「はい、殺します」
「聞くまでもなかったな」
俺は拳銃を巫女に向けた。
銃口は巫女が盾にしている夢花を捉えている。
「……マサくん、撃って。私は大丈夫だから」
「馬鹿言うなよ、何のためにここまで来たと思ってるんだ?絶対に助けるって言っただろ?」
「ありがとう……私すごく幸せだよ」
「男冥利に尽きる言葉だぜ」
俺は藤本さんに拳銃を渡した。
「なんだよ……俺に撃てっていうのか?流石にこの距離で巫女だけを狙うってのは……」
「撃つのは俺が死んでからだ」
俺は数歩前に出た。
最初のコメントを投稿しよう!