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「後は頼んだぜ、3人とも」
俺は呼吸を整えた。
夢花の届く距離にいる。
ようやくここまで来た。
最後の役目を果たすだけ。
「抜けよ巫女様、拳銃持ってんだろ?タイマンだ」
「……分かりました」
巫女は拳銃を抜いた。
俺は体勢を低くする。
「6発だ、俺はお前に向かって直進する。その間に殺してみろ。出来なきゃお前が死ぬぞ」
「いいですね……受けて立ちましょう」
俺は駆けだした。
巫女は拳銃を構えて発砲する。
弾丸が俺のこめかみをかする。
なるべく頭を振って、全速力で突っ走る。
2発目が発射される。
弾丸は後方で地面にぶつかる。
3発目、肩をえぐる。
俺は絶対に足を止めない。
愚直に真っ直ぐに突進する。
4発目は耳に直撃した。
欠けた耳がさらに欠ける。
拳が射程距離に入る。
頭目掛けて弾丸が飛んできた。
俺は頭を下げてダッキングした。
低い体勢から俺は目だけで巫女を睨み上げる。
ここは俺の距離だ。
俺は夢花を避けて、巫女の横腹を殴った。
巫女は呻くこともなく、冷静に拳銃を構える。
銃口が頭に当てられた。
撃てよ、脳みそ吹き飛んでも殺してやる。
「やめて!!」
巫女の体が大きく揺れた。
夢花が体当たりで巫女を押したのだ。
ずれた銃口から放たれた弾は俺の頭を貫かない。
全弾撃ち尽くした拳銃などもう何も怖くない。
俺は夢花の腕を取り、強く抱き寄せた。
「夢花、待たせたな」
「マサくん……」
もう1度夢花に触れられた。
甘い匂いが俺の鼻に入る。
この時をどれだけ待ち望んだことか。
俺はさらに強く彼女を抱く。
柔らかい髪に顔を擦り付けて、体温を感じ取った。
このままずっと抱きしめていたいが、まだ全部終わっていない。
巫女はリボルバーの薬莢を排出して、弾を込めなおしている。
俺はみぞおちにブローを叩きこんだ。
巫女が低い声を漏らして体を前のめりにする。
右フックで頬を殴り、アッパーで顔を跳ね上げた。
巫女はふらふらになりながらも倒れはしない。
とどめのストレートを放とうとすると、巫女は懐から短剣を取り出し俺の腹に刺そうとしてきた。
刃先を右手で受け止め、力に任せて奪い取る。
短剣を手の中で回し、逆に巫女の腹に突き立てた。
腹を刺され、赤い血が滲み出る巫女は俺の体にもたれかかってきた。
もう手に力が入らないのか、拳銃が地面に落ちる。
巫女は俺の首元に腕を絡ませる。
クリンチされた状態で、俺は彼女の背を抱いた。
「お前の負けだ、美智子」
「うん、残念だよ」
「ほんとか?」
「ほんとだよ」
「……悪いな」
「ふふ、謝っちゃダメだよ」
「あんたは悪くねぇ。俺にとって邪魔なだけだ」
「……夢を叶えたかったな、私も」
俺は巫女と額を合わせた。
彼女は泣いてなどいない、怒りもない。
口元を優しく歪めて笑っているだけ。
俺は彼女の頭を撫でた。
俺たちと同じ、いや彼女こそ……誰よりもこの村に染められたんだ。
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