神殺しの鬼

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「俺は夢花を助けるよ、それだけが生きがいだ」 「楽しかった?この村に来て」 「ああ、感謝してる」 「ふふ……嬉しいよ。幸せそうで何よりだ」 「あんたの本心が分からねぇ。人のためにやったのか?それとも自分のためか?」 「さあ?どっちでしょう?」 「……あんたは救えない、1人で精一杯だ……悪いな」 「いいんだよ。ごめんね」 「ああ……気にするな」 「さようなら政宗くん、体に気をつけてね」 俺は美智子を思い切り突き放して距離を空けた。 彼女は両手を大きく開き、まるで恋人の抱擁を待つように自分の最期を待った。 俺は1歩踏み出し、腰を捻り、真っ直ぐに腕を伸ばした。 鋭く重い右ストレートが美智子の顔面に直撃する。 彼女の体が浮き上がる、そしてそのまま炎の中に消えていった。 美智子は叫び声、呻き声1つあげずに目を瞑って自分の死を受け入れている。 彼女の体が燃えていく。 衣服が灰になっていく。 外れたヴェールと仮面の下の素顔は世間一般的に見て醜いものだった。 右目はデメキンのように飛び出しており、鼻の骨も変形しているようで大きく左に曲がっている。 側頭部には大きな瘤のようなものがあり、さらに髪の毛もなかった。 無垢の炎で焼かれた火傷の跡も醜さに拍車をかけている。 だが俺は……彼女を愛おしいと思ってしまった。 醜くなんかない、綺麗な顔だ。 「夢花、大丈夫か?」 「うん……来てくれたんだね」 「約束したからな、無事でよかったよ」 「……格好いいね」 「だろ?」 俺と夢花は微笑みあった。 すぐに彼女の腕に巻かれたロープを解く。 「よ、よくも巫女様を……」 「あ?」 2人の黒ローブがナイフを構えている。 無粋なやつらだ。 俺は夢花を後ろに下げて、やつらを片付けようとする。 「マサ……くん」 「なんだ?」 「なんか……火が……」 「あん?」 夢花が指さした炎を見つめた。 最初から燃え盛っていた炎がさらに轟轟と燃え上がっている。 異常なほどの威圧感だ。 なんだ?何が起こった? 俺は炎に焼かれる美智子の体を見た。 短剣が刺さった腹部から、黒いモヤみたいなものが漏れ出ている。 モヤは炎を侵食していき、赤い火を染めていく。 完全に真っ黒になった炎は、いきなり爆発したように弾けた。 炎か俺たちに降りかかる。 「危ない!」 夢花は俺に抱きしめて地面に押し倒した。 「おい!」 重なった俺たちは大量の炎を浴びた。 夢花に守られていない箇所に痛みが走る。 「大丈夫!?マサくん!」 「ああ……ちょっと熱かったけど……君は平気なのか?」 もろに炎に襲われた夢花を俺は抱きかかえ、体をさすって怪我がないか確認する。 焼けているのは衣服だけのようだ。 「ごめんね、マサくんのジャケットダメにしちゃった」 申し訳なさそうに夢花は俺のダウンジャケットを脱いで燃えた箇所を確認する。 「服なんてどうでもいいよ!君は大丈夫なのか?火傷してないか?」 「平気だよ、だって私は神様のお気に入りなんだから」 あどけなく夢花は笑った。 この笑顔はやっぱり好きだ。
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