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「……ん?」
俺は人に紛れ込んでいる男女に意識を取られた。
格好がこの場に似つかわしくないのだ。
2人はペアルックで同じ格好をしている。
普通のカップルなら珍しくもないことだが、彼らは白いローブのようなものを身に纏っていた。
ゲームに出てくる白魔導士のような格好だ。
海外の教会などではふさわしい衣服かもしれないが、ここは日本の空港の中だ。
何かのコスプレか?
そんな風に考えていると、彼らは俺のほうを一瞥してその場を去っていった。
「……なんだ?」
違和感を覚えたのはあの男女だけではない。
その近くにいた人間たちが何も反応を示していないのだ。
普通ならあんな変な格好をしたやつらが近くにいたら懐疑や冷笑の目を向けてもいいはずなのだが、まるで自然な光景のように受け入れられているように見える。
変なやつらに関わりたくないから無視してるのか……。
まあどうでもいいことだ、俺もやつらに関わる気はない。
土産見物を再開する。
買う気もないのに目に入った商品を手に取って、値段や成分表を眺めた。
俺は特に食べ物にアレルギーなどないので成分を気にする必要はないのだが時間潰しも兼ねたのだ。
同じ店にいる学生たちは友人と楽しそうに話している。
俺にも昔は心を許せる友達がいたな、なんて過去を思い出してしまった。
あの頃は本当に幸せだった……悔いても何か変わるわけではないがつい考えてしまう。
今だって不幸ではないはずだ。
五体満足で目も見えるし、耳だって聞こえる。
だが寂しさはどこまでもついてくる。
いつ死んでも誰も気にしない人生だが、生きるしかない。
俺は目的もなく空港の中を歩く。
体力には自信があるが、見知らぬ土地や多くの人に囲まれていると流石に気疲れしてくる。
ダラダラと歩いていると、俺は不可思議な光景を目撃した。
目を細めて首を傾げる。
眼前には赤いコートを着た少女と、その後ろに先ほどのような白いローブを着た男たちが10人いたのだ。
下僕を従える女王のように、少女たちは行進している。
「……なんだあれ」
俺は思わず呟いてしまった。
近くにいるほかの人間たちは何も反応を示さない。
俺にしか彼女たちの存在が認識できないのか?
そんな妄想さえ頭によぎった。
「おい嘘だろ……」
俺は彼女たちの進行方向を避けて壁際に寄った。
それなのに一団は進路を変更して俺に近づいてきたのだ。
少女を先頭にして……。
少女は俺の目の前で立ち止まった。
それを囲むように白ローブの連中も俺を見る。
ローブの男たちはみな満面の笑みだ。
その表情を見て、俺はうすら寒さを覚える。
「……なんだ?」
少女は何も答えない。
白い肌にまんまるとした2つの目。
艶のある黒い髪をしていて美少女という印象だが、どこかやつれているような印象を受ける。
ポケットから何を取り出した少女は、すぐに俺のジャケットのポケットにそれを入れた。
何事もなかったように少女は俺から離れていく。
ポカンと見送った俺は、しばらくして我に返った。
一体なんだったんだ?
「気味の悪いやつらだ、なんかの宗教か?」
宗教と言えば俺はカルトを連想する。
映画などで出てくる宗教団体はほとんどと言っていいほど悪者に描かれているからだ。
実際、俺も宗教に対して正しい知識も興味もない。
宗教は危険なものと刷り込まれているのかもな。
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