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「あまり痛めつけるな、行くぞ」
黒ローブたちが一斉に襲い掛かってくる。
俺は力を抜いて格闘の構えを取る。
まずかかってきた1人の顔にジャブを2回して右のストレートで地面に倒した。
横から掴もうとする敵の手をスウェーで躱して、ボディに1撃、そしてテンプルにフックを叩きこんだ。
3人目の接近を感知し、コンパクトに収納した腕を素早く伸ばす。
ショートアッパーが男の顎を貫き、怯んだところをみぞおちにきついパンチをお見舞いした。
呻きながら倒れる男に構わず、次の行動に移る。
だが後ろから羽交い絞めにされた。
すかさず後頭部で相手の鼻を潰し、拘束が緩んだところで肘打ちを腹に食らわせた。
くるりと体を反転させて、喉目掛けて殴りつけた。
残り4人、これほどまでに暴れているのだから異変に気付いた誰かが助けを呼んでくれるはずだ。
俺はちらりとそこらを歩いている人間を確認する。
俺は唖然とした。
男はスマホ片手に談笑しているようなのだ。
それどころか近くにいる警備員すら口に手を当ててあくびをしている。
俺の頭にハテナマークが押し寄せる。
「おい!助けてくれ!襲われてるんだ!!」
襲い掛かる男の金的を蹴って、肋骨を殴る。
戦いながらも俺は何度も助けを求めた。
だが誰1人こちらを見ようともしない。
「クソッ!」
現代ではこれほどまで人は人に冷たくなったのか!
俺は頭を切り替えて戦いに専念する。
幸い敵は取るに足らない。
「避けて!!」
少女の声が響く。
俺ははっとして後ろを見た。
眼前まで拳が迫っている。
咄嗟にダッキングをして裏拳を避けた。
攻撃を仕掛けてきた巨漢は相も変わらず気色の悪い荒い息を吐いている。
俺は先ほどのお返しとばかりに左ストレートを顔に浴びせた。
巨漢はびくともせず、俺を見下している。
俺は瞳を冷たくして、アッパーでやつの顎をぶち抜いた。
それでもやつは倒れるどころかふらつきもしない。
「あぁ?」
巨漢は岩のようなゴツイ手を固めて俺の腹を狙ってパンチを放った。
すかさず両腕でガードしたが、凄まじい威力に耐えられず俺の体は少し浮く。
ぎょっとしたが、俺はしびれる腕で攻撃を続ける。
顎に3発パンチを決めた。
巨漢は倒れない。
「おいチンだぞ!」
相手も反撃し、俺の横っ面目掛けて平手打ちが飛んできた。
俺はウィービングで躱してもう1度顎を殴った。
だが倒れない。
やけくそで金的への打ち下ろしを放つ。
しっかり殴ったはずだが、男は平然としていた。
「ぐっ……」
動揺している俺の髪を巨漢が掴む。
体を前傾に固定され、さらけ出した背中をやつは思い切り張った。
膝が崩れて地面に倒れる。
内臓までダメージが響き、俺は何度も咳き込んだ。
頭が痛くなる。
俺の首にやつの腕が巻かれた。
そして力を込められると、酸素の供給が止まる。
俺は必死に抵抗したが、巨漢はびくともしない。
意識が薄れていく、思考に靄がかかる。
誰かが俺の体を触っている。
誰だろう?
その人物に目を移すと、あの少女だった。
悲痛な顔で何かを訴えている。
もう声は届かない、何を言っているのか分からない。
意味の分からない化け物の腕の中で、俺は眠った。
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