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「!?!?!?!?!?」
今ここで聞こえてはならない声に、ルシオは飛び上がるほど驚き、反射的にセアを庇った。
振り返れば、もう二度と顔を見たくないと思っていた長髪糸目が立っている。
「な、クレトゥス!?魔王は倒したし聖剣も返したし、もう俺には用はないはずだろ」
「いやそれが、今度は邪神が甦ったので、その討伐に力をお貸しいただけないかと思いまして」
魔王の次は邪神って、何なのこの大陸。魔王は四天王の中でも最弱とかそういうノリ?
「俺はもう勇者は卒業しますから……」
「はい、聖剣」
思わず受け取ってしまった。
三年間、地獄の日々を共に戦った戦友であるその剣は、あまりにも手に馴染んで……。
クレトゥスの笑みが深くなり、違うそうじゃないとルシオは慌てて突き返そうとするが。
「邪神がこの世界を暗黒に染め上げれば、その方もどうなることか」
言うと思った!
「わかったよ、やればいいんだろ!」
「ルシオ………」
背中に庇ったセアが、不安そうな声で呼ぶ。
かつて満面の笑顔に変えたいと思った寂しさを滲ませるその表情が、自分の安全が脅かされることへの不安ではないと、ルシオにはすぐにわかった。
リスクは、あるだろう。
この場所にいた方が、絶対に安全に違いない。
けれど。
ルシオは、手を差し出した。
「一緒に、来てくれるか?危険かもしれないけど、絶対に俺が守るから」
もうセアに寂しい思いをさせたくないし、何よりルシオが、もうセアと離れたくない。
そしてそれは、正解だったようだ。
セアはじわりと笑顔になって、
「うん…!ルシオと一緒に行きたい!」
ルシオの差し出したその手を、強く握り返した。
『勇者の帰還、その理由』終
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