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「聖…剣?……えっ、あの剣が!?」  確かに立派な剣ではあったが。  驚けば、長髪糸目は芝居がかった動作で肩を竦めた。 「ご存じなかったのですか?本日の催しは、先日北の方で無駄に魔王が甦ったので、あの聖剣を抜ける勇者を探すためのものなのですよ」 「俺は…手違いでここまで来てしまって。あの、勇者と言われても、俺は鍬や弓ならともかく剣を握ったことはないし、ただの村人で」  村に戻って告白もしないといけないし、というのはひとまず黙っておく。  勇者…なんて、別の次元の存在だとしか思えなかった。  腰のひけているルシオに、長髪糸目はにこりとして、頷く。  それは「わかっています」という表情で、ホッと胸を撫で下ろしたのだが。 「問題ありません。使えないものは、使えるようになればいいだけです」  一つもわかってもらえてはいなかった。  長髪糸目はクレトゥスと名乗った。  なんと、若く見えるが、この国の宰相だという。  魔王討伐の旅に同行しつつルシオを勇者に鍛え上げる、と言うので、国は大丈夫なのかと聞いたところ、 「そもそも魔王に世界を滅ぼされたら国どころではないし、私がいなくてどうにかなるような国なら滅びればいいんですよ」  とのことだ。  この国は、これが宰相で本当にいいのだろうか。  不安でない要素がない。  それからは……地獄の日々だった。  鍛練(拷問?)の疲れを鍛練で癒す、鍛錬の鍛練による鍛練のための生活。  魔物ぎっしりのダンジョンに強制転移させられたり、クレトゥスの召喚した地獄の獄卒のような魔獣を相手に必殺技を閃くまで戦闘させられたり……。  正直、見たこともない魔王よりもクレトゥスの鬼軍曹的なシゴキの方が怖かったし、道中では賄賂を渡してきた悪徳領主の不正を暴いたり、悪徳司教の奴隷密売をやめさせたりと、世直しもしなくてはならなくて、大変だった。  それでも、世界が滅びればセアもいなくなってしまう。  だからとにかく、世界平和と、村に帰ることだけを考えて頑張った。  苦難の旅の末、その甲斐あってか呆気なく魔王を倒して、今ようやくこの村に戻ってこられたのだ。  別にそれを褒めて欲しいわけではないが、せめて、セアの笑顔が見たかった。
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