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逃げ出されて一瞬焦ったものの、あの鬼軍曹から受けた「相手が自分より早いというのなら、その上を行けばいいだけのことですよ」という滅茶苦茶な鍛練により身に付けた高速移動ですぐに追い付けるのだったと気付いて、追い越さないようにのんびり追いかけた。
すぐにつかまえなかったのは、込み入った話をするのに人のいないところまで移動したかったからだ。
村の外れまで来て、ようやく細い手首を掴んだ。
「……セア!」
ここは、三年前ルシオがセアを呼び出した場所だ。
風が吹き、視界一面に広がる草原がさらさらと揺れた。
草原の中心には、一本の木が立っている。
他ではみない常緑樹で、あまり大きくならない種類なのか、三年ぶりに見ても以前と全く変わった様子はなかった。
不思議なことにその木の下にいると、何かに守られていような気がして心地がよく、子供の頃はセアとよくここで遊んだ。
一瞬浮かんだ回想をすぐに打ち切り、ルシオは、ようやく立ち止まったセアの顔を覗き込む。
「なんで、逃げるんだよ」
「っ……どうして……、」
「セア?」
「どうして、今更戻ってきたの!?この村を…捨てたくせに!」
逃げ出したかと思えば今度は怒った様子で責められて、ルシオは困惑した。
呼び出しておいてその場所に現れなかった、と責められるのであればわかるが、捨てたというのは、一体…?
「いや、俺はあの日…、」
改めて説明しようとすると、経緯がどうしようもなさすぎて、一瞬言葉に詰まる。
その逡巡をどう捉えたのだろう。
セアは表情を気遣わしげなものに変えて、声のトーンを落とした。
「……相手の人と、うまくいってないの?」
「……………へ?」
何の話だろう。
セアの表情は暗い。
「相手の人?…とは?」
「結婚、したんでしょ」
・・・・・・・・。
!?!?!?
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