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「いや待て何の話だ。結婚?それはお前に今から申し込もうと……あ、いや」  既に家庭もあるのにこんなことを言われても困るか…。 「『お前に申し込もうと…?』」 「あー……」  言葉の最後の方は濁したものの、セアの耳にはしっかり聞こえてしまっていたようだ。  恐らく相手に気まずい思いをさせるから伝えない方がいいのだろうが、そこまで聞こえてしまったのなら、言ってしまってもいいかもしれない。  前に進むためには、きちんと振られておいた方がいい。  セアは、ルシオの言葉の続きを待っている。  ルシオは、その綺麗な瞳を真っ直ぐ見つめ返した。 「三年前…、呼び出しといて行けなくて悪かったな。あの日待ち合わせ場所に向かう途中で、ちょっとしたアクシデントがあって、今まで帰ってくることができなかったけど、会えてたら「好きだから、ずっと一緒にいてほしい」って…まあその、プロポーズするつもりだったんだ」  答えのわかっていることとはいえ、告白には勇気がいった。  緊張して指先が冷たくなっている。  一方セアは……、  セアは、ぽかんとして固まっていた。  予想だにしないことを言われたみたいな表情なのがかなり切ない。  冗談だよ、と誤魔化してしまいたい気持ちと必死で戦っていると、セアが呆然と呟く。 「嘘…、結婚は?」 「何でセアがそんな勘違いをしたのかわからないけど、した覚えはない」 「だって…、やけにお洒落して出掛けて行ったって、聞いて…。それからルシオはずっと帰ってこなくて、あれは恐らくどこぞの金持ちに見初められたなって…みんなが噂を」 「洒落た格好だったのは、お前に告白しようとしてたからだよ」  どんな勘違いなのかと肩を落とす。  そんな適当な噂を鵜呑みにしないで欲しい。  なにしろ平和な村なので、村を出て行った者が危険な目に遭っているかもしれない、などとは想像できないのだろう。 「ま、まあ、その……言いたかっただけだから、あまり気にするな。世話になった人達に挨拶したらまたすぐ旅に出るから」  正直なところ「あの時、言ってくれていたら…!」という反応を少しだけ期待していたが、こんなにびっくりしているということは、三年前からセアの方にはそんな気は毛頭なかったということだ。  ルシオがセアを好きだと思う気持ちは、セアの方にその気が無くても変わらないが、目の当たりにすると流石に堪えた。  これ以上傷を広げたくなくて、この場を去ろうとすると、はしっと服の裾を掴まれる。   「もう今は、好きじゃないってこと?」
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