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縋るような瞳で見上げられて、ぐっと詰まった。
ちょっと遅くなったけどまだいけるみたいな気持ちで戻ってきたら、いけるどころか相手は子持ちでした、なんて悲しい真実を全部俺の口から言わせるつもりかー!
…と憤りたい気持ちになりつつも、ルシオは昔から、セアのこの表情には弱いのだ。
置いていかれる子犬のような瞳の前には、洗いざらい白状するしかなかった。
「今も好きじゃなかったら、わざわざ言わなかったよ。ただ、まあ、既婚者に一方的に気持ちを押し付けたくはないから、忘れてくれていいって…」
言葉の途中で、相手の更なる驚きの表情を見て、とても情けない気分になってくる。
魔王と相対した時だって、こんなに逃げ出したい気持ちにはならなかった。
「既婚者……?」
「さっきのあの子、お前に似てるな」
・・・・・・・・。
セアははっとして、突然慌て始めた。
「あれ、姉さんの子だから!」
「え?」
「道具屋のトーマと付き合ってたの、知ってるでしょ!?」
「あー」
言われてみれば、そんな感じだったかもしれない。
村を出ることになる頃はセアのことばかり考えていたから、それ以外の記憶がだいぶ薄い。
そうか。そんなことが。お姉さんの子供なら、血のつながりがあるのだからセアの面影があって当然だ。
なるほど。
……あれ?
「……え?じゃあ、お前は今」
ひとりだよ、と俯いたセアの耳は赤い。
「ずっと……ルシオのこと忘れられなかったから」
思わず、その細い体を抱き締めていた。
そっと抱き返されるのが分かって、胸がぎゅっとなる。
「ごめん……、行けなかったことも、遅くなったことも」
「うん。…でも、もうこんな田舎の村には帰ってこないと思ってたから、ちゃんと帰ってきてくれて、嬉しい」
「肯定的な返事をもらったって思っていいんだよな?」
終わった気持ちでいたので、また少し信じられなくて念を押すと、腕の中から見上げたセアは、ずっと忘れられなかったって言ったでしょ、と笑った。
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