シュトーレンは、もうない

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 悔しさで怒りが込み上げてくるのをぐっと堪えた。 「あの、それでその……奥様はどうされたいとお考えでしょうか」  弱々しい口調だが、動揺している様子は見て取れない。 「そうね。実はね、家を出る前までは決まってなかったの」  そこで白紙の離婚届をデスクに出した。 「奥様、それって」 「主人の事、よろしくね」 「えっ」 「結婚するかは聞かないけど、私はこれ以上冷たい夫と一緒に暮らして行けないわ」 「奥様……」  小暮はテーブルの下で、きっとガッツポーズを作ってる。 「今ここで書いてしまうから、主人に渡してくださらない? このあと、主人にも会うのでしょう?」 「そうですね。そろそろ打ち上げもお開きですし」  会議室の時計をちらりと見た。十時を少し過ぎていた。そろそろ、夫は部屋に寝かされた頃合いだろうか。 「あの、話し合いはされないんですか?」 「……主人は私と話すらしてくれないの」  涙ぐむ素振りをする。 「……申し訳ございません」 「なぜ、夫の事であなたが謝るの?」  少しキツイ言い方をしてしまった。 「すみません。私、奥様に謝罪を……」  形式的な謝罪なんていらない。
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