シュトーレンは、もうない

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 誰かが、悲痛な叫び声を上げた。私はその声を聞くや、離婚届をショルダーバッグに押し込み会議室を抜け出した。出来る限り平静を装ってホテルを出る。早鐘のような心臓を押さえ、駅へ足早に向かった。通りのクリスマスソングが歪んで聞こえた。駅まで徒歩五分の距離がやけに長く感じられ、電車に乗り込んだ時は息も絶え絶えだった。やっとの思いで家に帰り、離婚届とナイフを片付けた。案外、まだ頭が回っている。 「夫がストーカー女を……刺したって言った?」  床にぺたりと座りこんでいると、固定電話のメッセージランプが点灯しているのに気づく。頭の中で夫が見知らぬ女を刺した映像が流れた。一呼吸して固定電話のメッセージを再生した。一つは坂井から折り返し連絡が欲しいというもの。もう一つは先ほどまでいた市内の警察署からだった。先に坂井に電話をすると、待ち構えていたかのように出た。 「奥様! 今までどちらにいらっしゃったんですか? 何度も電話したんですよ」 「ごめんなさい。緊張して、その辺りを歩いてたの」  坂井は一つ深呼吸した。 「……奥様も落ち着いて聞いてください」
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