31人が本棚に入れています
本棚に追加
取調べ中の夫とは会えなかったが、夫の弁護士によると正当防衛が認められる可能性があるという。相手の女とは無関係で、夫は自分の身を守っただけだと主張しているらしい。だが、女の容体は芳しくなく、夫の主張が認められるかは弁護士の腕にかかっていると、坂井が教えてくれた。坂井は女がこのまま目覚めないように呪っていると怪しげな事を口走った。婚約者との結婚の準備は進めているが、坂井の情緒がたまに不安定になり、度々婚約者と喧嘩しているらしい。がんばれエスパーと言うと小さく笑った。
事件から三日後、小暮から「離婚届は奥様から本人に渡して下さい」と電話口で伝えられた。結果的に夫は愛する恋人と社会的信用を失った。これはプライドの高い夫を殺害したのと同じだ。私は心から笑った。笑い続けて涙が溢れた。電話回線を引っこ抜き、暗い部屋でテレビに映る自分の丸い背中を見つめていた。ニュースには、モザイクがかけられた私が家に入るところや、マスコミに頭を下げている様子が映った。
「これからはダイエットもして、髪の毛も明るい色に染めて」
これからは本来の自分で生きていける。
「とは言え、習慣って怖いわね。買いすぎたわ」
最初のコメントを投稿しよう!