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「そんなネクタイ持ってた?」と何の気無しに聞くと「商談がある日の験担ぎに買ったんだ」と笑った。最初から用意してた言葉のように感じた。そのネクタイを付けた日には、会社の近くで張り込みをした。商談があるのは本当のようで、他社の人間が夫と一緒にいる様子を何度も見た。私の気のせいだと諦めた頃、夫が小暮を連れ立ってタクシーへ乗り込む場面に出くわした。向かった先は小暮のマンションだった。やはり、グリーンのネクタイは小暮に対しての合図なのだ。
夫への殺意は日に日に増し、その感情を抑えきれなくなったのはクリスマス間近に迫った朝の事だった。
「お前、それ食べ切るつもりか。また少し太ったな。でも、もういい。そうだ、今週末は仕事で帰らないからな」
「もういいって何よ?」
「……行ってくる」
シュトーレンは食べる気が起きず、近所に配って殆ど無くなっていた。
今週末のクリスマスイブに夫は小暮と会うつもりなのだ。夫は最近、ジュエリーショップでサファイアのピアスを買っている。きっと小暮の誕生石だ。私はピアスを付けさせてもらえなかった。
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