シュトーレンは、もうない

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 私の嫉妬心は自分の背中をそっと暗闇へ押した。夫を殺すのはクリスマス前夜。朝早い為に、きっと夫は早寝をする。その時を狙って家の包丁で刺し殺す。頭の中でシミュレーションをしているとインターフォンが鳴った。 「……どちら様ですか」 「あのー、私、ご主人の部下で坂井という者です。少し、奥様とお話があるのですが」  モニターに映る男は、確かに会社で見たことがある人物だった。よく夫に強い口調で叱責られているのは坂井のはずだ。それは決して小暮に見せていない姿なのだろう。 「……どうぞ、お入り下さい」 「ありがとうございます」  坂井は三十歳の小ざっぱりとした男だった。 「それで、私に話があるというのは」 「はい。そのう。信じて頂けるかどうか分からないのですが」 「はあ。何でしょう」 「僕、エスパーなんです」 「……はい?」  至って真面目な顔で私を見つめている。 「会社へ何度かいらっしゃってますよね? 僕、何度かお見かけしました。その時に奥様のご主人への殺意を感じとりまして、急いでお願いに参りました」 「……色々気になることはあるんだけど、まずはお願いとやらを聞きましょうか」
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