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「じゃあ駅まで送ってくよ」
「えぇ〜どうしちゃったの!なんか超紳士じゃーん」
「これくらい普通だろ」
「わかったぁ!これがいつもの手口なんでしょぉ?酔った女の子に優しくして、エッチなことしてるんでしょぉ〜?」
「してねーーから!」
こうやってすぐ茶化されて、イジられて。
俺の気持ちなんて伝わった試しがない。
ほんと、ふざけんなって。
——どこがわりとだよ、かなり酔ってんじゃねーか!
橘は意外と酒に弱かったらしい。
また1つ彼女のことを知れた。
「俺、何とも思ってない女子にはこんなことしねーから」
「何それ〜。もしかして、誘ってる?」
こっちは本気なのに、橘はただ酔った勢いと同窓会のノリだけで言ってるのが分かるから悔しかった。
俺はただのワンナイト要員。
でも、少なくとも俺は橘の中で〝セックスしてやってもいい男〟というカテゴリーの中には入れていたんだと、ちょっと喜んでる自分がいて。
俺は本当にバカで可愛いやつだ。
まだ大学生ではあったけど、大人になるってすげーと思った。
橘とラブホに来る未来があるなんて、あの頃の俺は想像すらできなかった。
こんなことも叶うんだ。
*
「そういえば沢村ってさ、高校の時私のこと好きだったりした……?」
朝方一緒にホテルを出て、静まり返った繁華街を2人で歩きながら、ふいに橘が聞いてきた。
それは本当に単なる好奇心からの質問で、真実を求めているわけではないと分かっていた。
「そんなこともあったなぁ……懐かしいわ」
俺のこのひと言が良かったのか悪かったのか、その日から橘とは定期的に会ってセックスするようになり、そのうち飲みに行ったり遊びに行ったりもするようになった。
こうして、万年友達フラグが立っていた俺は、晴れて橘のセフレ的ポジションになれたわけだ。
これが昇格なのか降格なのかは今はまだわからない。
そして先日、酔った橘が俺に話した。
自分は今康介と付き合っているんだと匂わせて、阿部さんを牽制してしまったと。
俺にはそれが懺悔のようにも聞こえたから、それをいいことに、つい阿部さんに告げ口してしまったのだった——。
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