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ここまで原稿用紙にペンで書き進めたところで書斎のドアを静かに叩く音がした。
「何?」
ちょうど一休みをしようと思っていたところだ。
振り向くと、カチャリとドアを開ける音がして、ロマンスグレーの髪を額に半ば垂らした、藍色のエプロン姿のディーノが浅黒い顔に柔らかな皺を刻んだ笑いを浮かべて立っていた。
「カプチーノが入ったよ、ギタ」
温かな甘い香りが書斎に微かに流れ込んでくる。
「ああ、ありがとう」
まだ途中の原稿の脇にペンを置いて立ち上がった。
「そのペンはもうすぐインクが切れるから替えの芯をさっき買ってきたよ」
ディーノはカプチーノの匂いをほんのり漂わせながら入ってくると、エプロンのポケットから黒インクの細い芯を取り出し、原稿の傍らのペンに手を伸ばした。
「それはインクを使い切ってから私が替えるから大丈夫」
「分かった」
ペンの脇にまだビニルに入ったままの芯を置く。
と、黒い瞳が原稿用紙の半ばまで埋め尽くした私の拙い筆跡の上で止まった。
「僕のことを書いてるの?」
四十歳の私よりもう一回りは老けて見えるディーノは物語の欠片を微笑んで見詰めている。
「まあ、ちょっと改変してね」
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