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「さっき、ジーナから電話が来たよ」
少し飲み食いをして落ち着いたタイミングでディーノは告げる。
「あと一時間十九分後に来るって」
「分かった」
編集者の彼女はとにかく容赦がない。
「取り敢えず、書いた分だけパソコンで清書するか」
伸び上がった私にディーノは飽くまで穏やかな笑顔のまま尋ねた。
「どうしてわざわざ手で書くの?」
ロマンスグレーの前髪の下の両目がパチリと瞬いてまた見開かれた。
これは彼が矛盾を覚えた時に問い質す合図だ。
「最初からパソコンで打つ方が早いのに」
「そうだね」
自分より老いた紳士の姿をしたディーノに聞き取りやすいようにはっきり答える。
「でも、手を動かす方がアイデアが浮かびやすいから」
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