ピュグマリオンの涙

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***** 「さっき、ジーナから電話が来たよ」  少し飲み食いをして落ち着いたタイミングでディーノは告げる。 「あと一時間十九分後に来るって」 「分かった」  編集者の彼女はとにかく容赦がない。 「取り敢えず、書いた分だけパソコンで清書するか」  伸び上がった私にディーノは飽くまで穏やかな笑顔のまま尋ねた。 「どうしてわざわざ手で書くの?」  ロマンスグレーの前髪の下の両目がパチリと(しばた)いてまた見開かれた。  これは彼が矛盾を覚えた時に問い質す合図だ。 「最初からパソコンで打つ方が早いのに」 「そうだね」  自分より老いた紳士の姿をしたディーノに聞き取りやすいようにはっきり答える。 「でも、手を動かす方がアイデアが浮かびやすいから」
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