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「それはそうだけど」
実際、受けが良いのはヒューマノイドなど影も形も出てこないようなヒトだけの恋愛や友情物だ。
読者の大半はそんないつも自分のリアルから離れたファンタジーを好むのだ。
「私も作家というか、この社会に生きる人間としてもう見過ごせないの」
担当編集者の珊瑚色のスーツの肩越しに見える、落ち葉を織り込んだレースのカーテンで覆ったガラス窓。
その向こうに広がる秋晴れの空の水色に目を注ぐ。
「この前、交差点で右折した車がカップルとぶつかる事故を目撃した。女性の方がとっさに男性を庇って、自分が車に轢かれて粉々になった。それで彼女がヒューマノイドと分かった」
こちらを眺めるジーナの榛色の瞳にふと痛ましい光が走った。
「運転手が降りてきて男性に謝ると、彼は笑って『いいんだよ、そいつはそろそろスクラップにしようと思ってたから。これで回収業者に払う金が省けた』と」
表情の消えた眼差しになった相手に私は続けた。
「人の心がないのはどちらなんだろう、と」
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