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序章
「史郎。一つだけ約束してね」
小さな木造の家。ぎぃ、と音の鳴る椅子の上で、史郎は上を見上げた。
膝に乗った史郎を大事そうに抱きかかえた母は、そっと優しく頭を撫でてくれる。心地よさに目を閉じそうになった史郎は、母の胸に頭を預けた。
「人を疑う時は、その人を傷つける覚悟をして」
「かくご?」
史郎はうとうとしたままそう繰り返した。
史郎の頭を撫でていた手が、そのままするすると移動し史郎の頬に来る。そっと頬を包まれた史郎は、不思議そうに母を見つめた。
「そうよ。その人を疑ってしまったら、結果はどうであれ傷つけてしまうことが多いの」
少しだけ泣きそうな母の表情に、史郎は何も言えなかった。
ただじっと、その目を見つめるだけ。
「だからお願い。あなたは……あなたは、大切な人を傷つけない子でいて」
懇願するような母に抱きしめられ、史郎は頷くことしか出来なかった。
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