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「安心しろ、一人しか合格しないと言うわけではない。戦い方を見て判断する。まあ、合格と言っても見習いにだがな」
グレーンがそう言ったあと、さっそく同じ時期に受けに来た16名、試験官の適当な組合せで戦う事となった。武器こそ用意された木製の剣や槍、斧、盾を使用しなければいけなかったが、後のルールは何もなかった。ただ勝てば良い、それだけだった。
誰かが「勝敗はどうやって決まる」とした質問にグレーンが答えた。
「勝敗の判定はこちらで行う。あるいはどちらかが参ったと言うかだ」
「本気でやっていいのか? そっちの小さいのなんて死んじまっても知らねえぜ」
16名の中で一際大きな男がお腹の肉を揺らしながらノアを指差して言った。
ノアが「なに!」と言って向かおうとするのをレイが止める。
そんな様子を制する様にグレーンが力強い声を発した。
「本気でやってもらう。勝負の勝敗が明らかになった時点でこちらで止めるが、怪我をする場合もあるだろう、下手すると死ぬ場合だってあるかもしれない。その覚悟がある者だけ残ってもらう。覚悟のない者はお帰りいただこう」
しばらく沈黙が続いた。
「よし。覚悟があるとみなす」
それから、試験官達の適当な組み合わせが始まった。
レイの相手は最後に飛び込んできた男になった。
体こそレイより一回り大きいものの剣術の経験は乏しいのか構えがぎこちなかった。レイは木製のブロードソード(幅広片手剣)を中段に構え相手を待った。相手はまるで、師匠に稽古をつけてもらった昔の自分の様だ。
相手はしばらくすると間合いも測らず、刀身を真っ直ぐ構えて突っ込んできた。レイは直線的に振り下ろされる剣をサッと避けてすれ違いざまに、相手の剣を叩き落とした。バランスを崩し倒れた相手を見て、師匠アイウェルに「重要なのは間合いだ」と何度も言われていた事が頭をよぎった。
「勝負あり。勝者レイ」
相手が大した事なかった事に一息つく。怪我もさせずに済んだ。
それよりもレイはノアが気になった。木製の武器はどれも大きく重い、軽くてもブロードソード。レイピアや軽いスモールソードの類はなかった。彼女のスピードは本物だ間違いない。しかし、自分の武器以外、この男用の重い武器で戦えるのか?
案の定、ノアは試験官に文句を言っていたようだが、取り合ってもらえなかったようだ。ブツブツ文句を言いながら一番小さな槍を手に取った。
ノアの相手は自分達より明らかに年上の男で、ロングソード(両手剣)を右上段に構えていた。構えが柔らかい、一眼でかなりの経験者だと分かった。それに対しノアは槍の刃先を地面に付けやる気なく引きずるように持ち男の前に立った。
「気をつけろ!」
レイの声が届く前、開始の合図と共に男の斬撃が飛ぶ。ノアは地を這うように低く斬撃を避け転がった。男は身を翻すと連続で剣を打ち下ろして来る。ノアは身をかわしながらもその斬撃を槍で受けた。バキッという鋭い音と共に、地面についた刃先部分とノアの間で槍が折れた。
激しい戦いに周りの者たちから「オオー」という声が上る。
ノアは「ありがとう」と呟くと、槍の残った棒部分を軽く振った。そして、次の男の上段からの連撃を縫って懐に飛び込むと、鳩尾部分に棒を突き刺した。
もんどり打って倒れる男を尻目にノアは試験官に「これでいい?」と言ってのけた。
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