第1章 シエンナ騎士団

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 2回戦のレイの相手は、小柄で少し背の曲がった男だった。 「俺もレイピアやスモールソードがないのは納得いかねえな。そこはあの女に賛同するぜ。決闘と言えば普通レイピアやスモールソードだろ。俺はダガーでもいいがね」  その男は、そう言ってレイの前に立った。手には重たそうにグレードソードを持っている。レイは得体の知れぬ相手に、グレードソード、そして小型の盾を取った。 「始め!」  の合図と共に、小柄な男の体がフワッと揺れたかと思うと軽く浮いている様にも見えた。見た事もない足捌きだった。そして下段に構えたグレードソードが一層不気味な感じを醸し出し間合いを掴めづらくしていた。師匠アイウェルの言葉を思い出す「恐るな。一瞬の恐れが死を招く。如何なる時も気を張り集中しろ」。  レイは相手との間合いをジリジリと詰めた。相手が返し技を狙っているのは一目瞭然だった。剣先が触れ合う様な二人の気迫が触れた瞬間、レイは斜め上からの斬撃を牽制のために打ち込んでみた。読み通り、相手は下からの剣を振り上げ擦り合わせる様にレイの剣を弾いた、そしてそのまま反動で切り付けてくる。無駄のない素早い動きだが、予想通りの行動にその一撃を盾で受ける。  予想外だったのは、その男がそのままグレードソードを手放して、懐に潜り込んできた事だった。ノア程のスピードではなかったものの、戸惑いのない動きが男を加速させていた。   レイがギリギリの所で身を翻して、掌底を避ける。そのまま、グレードソードの柄頭を男の背部に叩きつけた。  「勝負あり!勝者レイ」  倒れ込んだ男を見て、試験官が素早く声をかける。  やりずらい相手だった。相手がレイピアやスモールソード、あるいはダガーを持っての試合だったらどうなっていたか。冷たい汗が首筋を流れ落ちた。  起きあがろうとしていた男を見ていたレイの耳に「おおー」と言う怒声が飛んできた。  隣の試合場では、あの巨軀(きょく)で力のありそうな男がロンソードより大きい大剣ツーハンドソードを「おおー」と怒声を響かせて振り回していた。赤ら顔がより一層朱に染まり、湯気が立ち昇っているようだ。  相手は、あのレイが一目置いていた眼光鋭い銀髪の男、ブロードソードと中型の盾を構えて冷静に相手を見つめていた。隙のない構えとその風格は、試験官を務めているシエンナ騎士団のメンバーと比べても引けを取らない。  巨軀の男が振り下ろした剣を、銀髪の男がサッと静かに身をかわして避ける。そして続け様に巨軀の男が水平に振り回した大剣を盾で受けた。ガツンという激しい音と共に銀髪の男が数メートル横に吹き飛んだ。 「ホウ、大したもんだ」  銀髪の男はそう呟くと盾を投げ捨てて、手が痺れたのか左手を振った。 「いいのかい、盾を捨てて。もう受けられないぜ」 「構わん。必要ない」  そう言うと銀髪の男の構えがフッと低くなった。  巨軀の男が離れた場所で再び大剣を振り上げた瞬間、銀髪の男が凄まじい跳躍を見せて間合いを詰めた、皆がハッとした時にはすでにブロードソードを巨軀の男の足の甲に突き立て、風の様に脇をすり抜けていった。  銀髪の男が再びブロードソードを構え直した時、巨軀の男が激しく崩れ落ちた。  再び立ちあがろうとする巨軀の男だったが、立ち上がることはできず足を抑えてうめき声を上げた。 「勝者、ランス」  ……ランスと言うのかあの男。勝ち抜いていけば、いずれ必ず当たる事になるだろう。  ランスを見つめるレイの横に、ノアが来てボソリと呟いた。 「あいつより、私の方が早いー♪」 「……もう勝ったのか? お前」 「楽勝。って試合のことじゃないさ、スピードの事だよスピード」 「……」 「なんか言えよ」 「貫禄負けだな」  ノアの裏拳がレイの腹に飛ぶ。 「次の私の相手、あいつだってさ。まあ、見とけよ」 「……気をつけろよ」  ノアは後ろを向き片手を振ると、気楽にスタスタと歩いて行った。
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