第1章 シエンナ騎士団

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 残り4名となったここからは、1試合ずつ行われることとなった。  まず、広間に中央に銀髪の剣士ランスとノアが、審査官グレーンを挟んで立ち並んだ。  そして次の対戦を控えるレイと、フードをかぶった男がそれぞれ広間の対極に陣取り試合を見守った。  ノアは相変わらず槍をへし折った棒切れを持って。ビュンビュン振り回したりしていた。  一方ランスはブロードソードに、小型の盾という格好だ。 審査官グレーンが「それではこれから、ランス対ノアの試合を始める」と宣言して端に退いた。ノアは相変わらず棒切れをビュンビュン振り回している。 「始め!」  グレーンが開始の合図を発すると、ノアは「だいぶ使い方が慣れてきた」と呟やいてスッとランスの右側に周りこんだ、そして構えるでもなく棒の先を握って、今まで握っていた部分を手放した。  ……何をする気だあいつ。  レイがノアの持つ棒を良く見ると先だけ細くスモールソードの様に削られていた。今までノアが手で持っていた部分だ。  ノアが棒を振り下ろす様なフェイントを見せた後、刺突の連続攻撃を繰り出した。刺突自体もちろん早いが、驚くのはノアの体捌きだ。残像が残る様な素早い左右大きな移動を見せ、棒の届く間合いまで瞬時に詰めていく。   ランスが一方的に後退しながら受けに回った。    ノアの刺突の蓮撃が続く。鬼気迫る攻撃にランスも攻撃を繰り出す隙がない様だった。だが、ランスは後退しながら小型の盾をうまく使いノアの刺突をいなしていた。そして、ノアの攻撃の緩んだ瞬間、閃光が走る様な鋭い一振りを繰り出した。ノアはサッと避けて間合いを取る。 「私の方が早いね」  強がったノアだったが、肩で息をし汗を噴き出していた。  「確かに早いが、受けに回れば凌げない事はない」  そう言うと、ランスは再び鋭い切り込みを見せた。  ヨロっと間一髪でかわすノア。 「あきらめろ!」  ランスの鋭い一声が飛ぶ。  激しく息の切れているノアと、未だ余裕の表情を見せているランス。やがてランスが低い姿勢の構えを取ると、ノアの動きも止まった。防御に徹していた先ほどまでのランスと違い、その攻撃的な間合いの前に懐にまで入り込む隙がないのだ。  ノアの激しい息切れだけが広間に聞こえていた。皆の目には、もうすでに勝負の行方はついている様にも見えた。  しかしノアは「まだだ」と叫びランスを見つめた。  「こっちはお前と違って、地べたを這いずり回ってここまで来たんだ。そんな簡単に諦められるかよ。そんな綺麗な戦い方は知らない、だがな見せてやるよ泥まみれの魂、その戦い方を」  ノアは再び高速の動きで残像を左右に残しながらランスとの間合いを詰めた。だが、やはり力が残っていなかったのか、棒切れを床に落としてしう。「アッ」と周りからの声があがる。ランスも瞬間その棒を目で追った。その一瞬の隙をついてノアは飛び上がった。  盾を素早く持ち上げ防御するランス。  ノアは盾に手をつき、さらに盾の上を駆け上がり上空へと飛び跳ねランスを超えた、そしてランスの背後に棒切れを突き立てる。ランスは咄嗟に右腕を出しその一撃を受けた。 「へへー、別に1本じゃなきゃダメだなんて言ってなかったもんね」  そう言うとノアは更に2本背中から棒切れを取り出した。  シエンナの老剣士ヴィベールが、木剣などの並べられた場所を見ると、木の槍がすべて無惨にへし折られていた。ヴィベールは「やってくれるわ」と呟き額に手を持って行った後、フッとこの出来事を鼻で笑った。  ランスは右腕、肘の下あたりから血を流していた。 「降参するかい?」ノアが激しく息を切らしながら尋ねた。 「まさか」 「流血しているぜ」 「かすり傷だ。一撃がパワー不足。大した事ない」  ランスは盾を捨てブロードソードをしっかり握りなおすと、低い姿勢で身構えた。ノアが一歩引いて、大勢を立て直そうとしたところ、ランスが鋭い跳躍で飛び込んできた。ノアはすぐに足に力が入らず遅れを取った。それでも、ランスの薙ぎ払う一撃を2本の棒切れで受け止めたのだが、バキッという鋭い音と共に棒は粉砕し、ブロードソードはそのままノアの脇腹を打ちつけた。  沈み込む様に倒れ込んだノアは、そのままのたうち回った。 「クソー、腹がー、腹がー」  試験官のグレーンが「勝者、ランス」と言った後、すぐに担架もってこいと声を上げた。  老騎士ヴィベールとレイがノアの元に駆け寄る。 「大丈夫か?」ヴィベールが尋ねた。 「腹がー。クソッ」 「もう喋るな。静かにしてろ」レイが心配して声をかける。 「クソー、腹に何か入っていれば、もっと力が出せたのに。腹が空っぽで燃料切れだ! クッソー!」 「傷は?」 「脇腹が痛てー、でも腹よりましだ」  そい言ったノアの腹が、グリュ〜と鳴った。 「……ノア、……もう喋るな」  レイは静かに呟いた。  やがて、ノアはやって来た担架に乗せられた。医務室に連れて行かれるらしい。 「レイ、次の相手気をつけろ。魔法をつかうぞ」 「なに?」 「どんな魔法を使うかはわからない。今まで注意して見てたが尻尾は出さなかった」 「……そうか」 「イテテテテ」  とノアが身を捩った。 「レイ」 「なんだ」 「医務室に食事はあるかな。なにか食べさせてもらえるかな」 「……さあな」 「レイー、医務室に食事あるかなー」  ノアが泣き声でそう答えた。 「私、レイの勝利を祈るから。レイは私の食事を祈ってくれ。グッドラック」 「ノア、もう喋るな。一応、食事の事は祈ってやるから。グッドラック」  ノアは力尽きた様に寝転んで運ばれて行った。  レイがハァとため息をついて広間を見ると、もうすでにフードをかぶった男がブロードソードを持って中央に立っていた。レイは「泥まみれの魂か」と呟いて、中型の盾とブロードソードを取った。「ヨシッ」と気合を入れ広間中央へと向う。
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