終着駅

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 翌日、信也は両親と一緒に近くの喫茶店に行く事にした。喫茶店は鷹野駅の近くにある。参拝に来た人が多く訪れるが、ここ最近はそれ以上に鉄オタがよく来ているという。というのは、ここに鷹電の部品が多く展示されているからだ。ここの店主が鉄オタで、鷹電が特にお気に入りだという。  3人は喫茶店にやって来た。喫茶店の前には何台かが停められる駐車場があり、開いている駐車場がない。参拝の人だろうか? それとも鉄オタだろうか?  3人は喫茶店に入った。喫茶店には何人かの人が来ている。彼らの中には鉄オタがいて、ここに展示されている鉄道部品を撮っている。 「ここがその喫茶店なの?」 「ああ」  信也は辺りを見渡した。壁には多くの鉄道部品があり、まるで博物館のようだ。机や椅子は家のダイニングのようで、アットホームな雰囲気だ。 「いらっしゃいませ」  3人に気付いた店主がお辞儀をした。その店主は鉄道員の帽子をかぶっている。 「鷹電の写真や鉄道部品がここにあるって聞いて」 「ええ、どうぞ自由に見て行ってください」  3人は喫茶店の中に展示されている部品や写真を見始めた。中には昔の写真が多く、賑わっていた頃の鷹電の写真が多い。今とは比べ物にならない人が乗り降りしている。これだけ今でも乗っていれば廃止にならなかっただろうに。 「これが昔の写真?」 「うん。当時はホームが2本あったんだよ」  信也が写真をよく見ると、2本の電車が停まっている。島式ホームの両方を使っていた頃だ。今はレールをはがされ、レンタサイクル乗り場になっている場所だ。 「けっこう多くの人が乗り降りしてたんだね」 「ああ。特に、初詣の時は超満員だったんだ」  その隣には、初詣の時の鷹野駅の写真がある。今でも多くの人が来るが、その時よりも多い。その頃はまだ車が発達しておらず。鷹野神社へは鷹電が重要な足だった頃だ。  その上には、鷹野駅とは別の駅の写真がある。信也はその駅に見覚えがあった。塾に行くのに乗っている区間にある更家(さらや)駅だ。民家もそんなに多くないが、この写真にはより多くの民家がある。だが、違う。北畑(きたばた)駅のように、行き違いのホームがある。 「電車が貨車を牽いている」  信也が写真をよく見ると、電車が貨車を牽いている。今の電車には、貨車が付いていない。こんな電車も走っていたんだな。 「昔はこんな電車もあったんだよ」 「そうなんだ」  と、信也は駅名標を見つけた。駅名標には『さらや』と書かれている。信也は驚いた。ここが更家駅だとは。2本もホームがあるのに。 「これが更家(さらや)駅?」 「ああ」  父は往時を懐かしみながら見ている。あの頃はとっても賑やかだったな。今ではめっきり少なくなったけど。 「ここも2本ホームがあったの?」 「あったんだよ」  あの頃はもっと本数が多くて、数両の電車が走っていた。だけど今は、単行のワンマン電車が行き来するだけだ。  と、信也は何かを思い出した。 「あっ。そういえば、レールのないホームがあった!」  信也は更家駅に使われなくなったと思われるホームがあるのを思い出した。あのホームが使われた時の写真だったのか。 「そう! ここにホームがあったんだよ」 「あっ、これかな?」  信也は駅舎と反対側のホームを指さした。そこにはレールが敷かれていて、ホームの上では1人の老人が電車を待っている。 「そうそう! もう行き違いができなくなったんだよ」  と、喫茶店に何人かの男がやって来た。彼らはカメラを首からぶら下げている。どうやら鉄オタのようだ。ここに鉄道部品が展示されているのを知って、この喫茶店に来たようだ。 「お邪魔しまーす」  店主は彼らに反応した。店主は彼らが鉄オタだという事を知っているようだ。 「ここに写真が展示されてるんだよ」 「すごーい!」  写真や鉄道部品を見て、鉄オタは興奮している。店主はその様子を嬉しそうに見ている。同じものが好きな人の姿を見ると、なぜか嬉しくなってしまう。どうしてだろう。  鉄オタは、黒原駅の昔の写真に興奮している。開業したての頃の写真のようだ。そこには今のより小さい、ポール集電の電車がある。 「これこれ、開業時に走ってた車両。今も黒原駅の構内で入換として使われてるんだって」  その電車は開業時に走っていた小さな電車だ。数十年前に電車としては引退したが、それからは黒原駅の構内で入換として使われているようだ。信也はたまにその電車を見た事があるが、全く興味がなく、じっと見る事はなかった。まさか、開業時の電車の生き残りだったとは。こんな電車が今でも残っているとは。もっと注目しておけばよかったな。 「見た事ある! イベントで見た事ある! 写真撮った!」  彼らは、去年に黒原駅で行われた鉄道フェスタでその小さな電車を見た事があり、中に乗った事もあった。中は昔懐かしい木造で、まるで昭和初期にタイムスリップしたような車内だったそうだ。 「これが電車だった頃の姿か」 「数十年前に引退したけど、こんな形で残ってるって、すごいよね」  あ彼らはこの貴重な車両を保存してほしい気持ちでいっぱいだ。できれば開業当時の姿に復元して保存してほしいな。 「ああ」  その話を聞いていた3人もやって来た。あの構内入換の小さな機関車がこんな貴重な電車だったとは。これは残す価値があるな。 「これからも残ってほしいね」 「うん」  信也も同じ思いだ。できれば晩年に活躍した電車と一緒に鷹野駅に保存したらどうだろう。 「鷹野駅に保存してほしいと思わない?」 「それもいいな」  父は笑みを浮かべた。駅舎も含めてここに保存して、ここに電車が走っていた事を語り継ぐための施設にしてほしいな。  その隣には、更家駅の部品がある。駅長室や駅名標、それからタブレット閉塞機がある。今は普通の信号を使った自動閉塞だが、昔はタブレット閉塞をしていて、信号機は腕木式信号機だったという。安全のためにこうなったが、タブレット閉塞の好きな鉄オタもいる。そんな中でなくなっていくのは、これまた時代の流れだ。安全のためにタブレット閉塞は消えていく。寂しいものだ。 「これらは?」 「更家駅の駅舎の部品だよ」  信也は驚いた。今の更家駅はホーム1本と今は使われていないホームだけだが、昔は駅舎もあったんだ。鷹野駅ほどじゃないけど、立派な駅舎だ。駅舎がなくなったのも、時代の流れだろうか? 「更家にも駅舎があったんだ」 「ああ。昔はもっと乗客が多かったんだ」  父は更家に住んでいた友人の事を思い出した。その頃の更家駅の周辺には多くの集落があッったのに、今では村ではなくなり、地名になってしまった。若い人々は都会に移り住み、更家に住んでいる人々はみんな高齢者だ。高齢者がみんな死ぬと、更家はもう人がいなくなり、消滅してしまうんだろうか? 父は寂しそうにその写真を見ている。 「賑やかな時代があったんだね」 「そんな時代も今は昔」  信也はその時、鷹電が多くの人々に愛されていたんだと感じた。こんな路線、どうして廃線になってしまうんだろう。だが、もう決まってしまった。今月で廃線になってしまう。その時までに鷹電の様子を心にとどめておかないと。
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