1.季節外れの転校生と

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 面白そうじゃんと呟いた次の瞬間、絢門くんが楽しそうに酒々井くんのほうへ駆け寄っていく。 「ねーねー、テンコーセーくん!」 「な、なんだよ」  おれたちを警戒しているのか、酒々井くんは引き気味に体を反らせた。そんな反応は全く気にせず絢門くんは彼の顔を覗き込む。 「オレのことは、どー見える?」 「……あんたとは絶対関わりたくない」 「なるほど。……ちょー面白いね、君! 決めた、オレとお友達になろーよ」 「はぁ!?」  またもや耳をつんざくような悲鳴が響く。騒がしすぎて帰りたくなってきた。どうしておれはここにいるんだろう。  ……榮のせいだった。転校生と会わせたがった目的は分からないけれど、あとでおやつを献上してもらわないと割に合わない。 「おい、関わりたくないって言ったの聞こえなかったか!?」 「絢門って呼んでカイセーくん! ほら、名前を呼び合ったからもうお友達~」  絢門くんが酒々井くんの手を取って一方的にブンブン振る。強引すぎると叫ぶ酒々井くんが気になったのか、好奇心旺盛な謡方兄弟までおれの手を放して絡みに行ってしまった。 「楽しそうだね! 僕は謡方渚だよ!」 「面白そうだね! 僕は謡方汀だよ!」  自己紹介をしたあと、二人がぐるぐると回って位置を変える。初対面の相手には必ずやっている遊びだ。正解率は今のところゼロパーセントらしく、おれもしっかり間違えた。 「「どちらが渚でどちらが汀でしょうか!」」 「こっちが汀、こっちが渚。……お前らは何がしたいんだ?」  考える素振りもなく酒々井くんが答える。  ぽかんと口を開けた後「「すごーい!!」」と二人が歓声を上げた。 「初めてだよ!」 「当てたのは!」 「「海晴くんは僕らと前世からお友達だったんだね!」」 「なんでそうなるんだよ!」  一部始終を眺めていた九万神先輩が、小さく笑って「面白い」と呟く。 「渚、汀。そいつを二階席まで連れて行け。共に食事をして親睦を深めようじゃないか」 「「はーい!」」 「いやだ、断る!」 「お前に拒否権はない」  この場にいる誰よりも小さい謡方兄弟が、抵抗する酒々井くんをずるずると引きずっていく。彼らは意外と力が強い。  それにしても二階席まで一緒とは、騒がしい昼食になりそうだ。溜息を吐きそうになったところで、連行されていく彼と視線が合ったような気がした。 「なあ、あんた、あんたも嫌なら嫌って言えよ!」  どきりとする。酒々井くんは完全にこちらを見て言っていた。話しかけられるとは思わず、急に視線が集まったこともあって心臓が嫌な音を立てた。 「え、と……」  嫌といえば嫌なのだけれども、それをこの場で言う勇気はない。完全に生徒会のみんなが転校生を気に入って連れていく流れなのだ。楽しそうにしている仲間に水を差したくはなかった。 「みんなが楽しそうだからって、自分の意見を曲げる必要はないんだぞ」 「……っ」  心を見透かしたような言葉が怖い。  おれはこれでいいのに、よくないと言われたらどうすればいいのか分からなくなる。 「生徒会は嫌がっている人間を従えるのが趣味なのか? そこの……霖道だったか、そいつが可哀想じゃないか」  そうじゃない、と言いたいのに喉の奥がきゅっとなって何も言えなかった。  ひそひそ声が増えて空気が重くなる。おれが何も言わないせいで、生徒会のみんなが悪者のようになってしまうかもしれない。  どうしよう、どうすればいい、何を言えば――目まぐるしいくせに答えの出ない思考に焦っていた、そのときだった。 「――霖道様」  波立った心を静めるように、すぐそばで穏やかな声がした。
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