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ここは緑が深い。
訪れたログハウスのテラスから、外に広がる景色を眺める。
目の前に広がる緑の木々は、人工的に増やされたはずなのに、まるで以前からそうであったかのようだ。
その緑の向こうに小高い山が連なり、裾野には湖が広がる。人工湖であるそれは今は恒星の光にキラキラと湖面を光らせていた。
空気の良いところで休養を──。
そう医師に言われ、アスールにここへと連れて来られた。惑星エクラにある湖水地方だ。
その日、アスールはどこかへと外出した。いない間はしっかりと警備がされている。
アレクに会いたい。
切実にそう思う。しかし、連絡する術はアスールによって周到に絶たれていた。
それもそうだろう。下手に連絡を取られては、帝国軍の強襲を受ける事になりかねない。居所が分かれば、アレクはどんな手段を使ってもここへ飛び込んでくるだろう。
仮にもここは旧連合の管理する惑星。
そこへ突然、帝国軍が武器を携えて来訪すれば、要らぬ小競り合いが生まれるのは目に見えている。余計な所へ飛び火する可能性もあった。
もちろん、忍んではくるだろうけど…。
それでも双方に波乱が生まれる事は避けられない。
アレクは自分が死んだと思っているはず。
その絶望が感じられ、いてもたってもいられなくなる。
せめて、生きていることを伝えられれば──。
今、帝国で何が起きているのかも全く知ることができなかった。
哀しみの中にいあるであろう、アレクはどうしているのか。
ユラナス含め、ザインやアルバ、ラスター、リーノも、どんな思いでいるのか。
それにゼストス。
彼は誰にも増して自分を責めているだろう。
確かに裏切りはしたが、自分を可愛がってくれのはゼストスだ。
十代の頃から気にかけ、面倒を見てくれた。研究所へ異動になった際も、わざわざ懇願し、ついてきてくれた。
アレク殺害の計画に加担したのは不思議でならない。どうしてそうなったのか。今のソルは何も知ることができない。
せめてアレクの無事をここで祈るくらい──。
緑の起す風が頬を撫で、湖面にさざ波が立つ。ふと、背後でドアの開く音を聞いた気がした。
アスールが帰って来たのだろうか──。
彼は卒なくソルの面倒を見てくれ、過不足はなかった。接し方も程よい距離を保ってくれている。
なんとなく、彼のもとで寛ぐセレステが想像できた。きっと彼のそんな態度が心地良かったのだろう。
セレステはあれ以来、姿を見せていない。
アスールはそれについて何も言わない為、何があったのかは分からなかった。
何処かに隠れているのか、それとも──。
捕らえられているならば、相当の処分が下されるはず。気がかりの一つだった。
風が止む。
背後の床が軋んだ音を立てた。
やはり、アスールか──。
テラスの手すりから手を離し、振り返ろうとすれば。
突然、視界の端が金色に遮られた。背後から強い力で抱きしめられ、息も継げない。
ふわりと、懐かしく親しんだ香りに包まれた。
これは──。
この、温もりは──…。
「アレ、ク…?」
久しぶりのその名に、声が掠れる。肩を抱きしめる腕に手をかけたが、その手が震えた。
「会いたかった…。とてもな…」
涙交じりのくぐもった声。
ああ……。アレクだ──。
視界が滲む。
俺も、会いたくてたまらなかった。
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