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地域猫タマ
今年も人魚漁解禁の時期が来た。
この辺りをうろついている地域猫のタマが教えてくれた。タマは猫のくせに僕の下宿の向かいにある魚屋に出入りしていて、店の主人がそう漏らすのを聞いたらしい。
人魚の肉を食べると不老不死になる。
その昔、八百比丘尼という女性は、人魚の肉を食べて歳を取らず、姿は乙女のまま800歳まで生きたという。
だから、現代でも密かに人魚の肉を求める人はいる。しかし、人魚は希少であるらしく、ある一定の期間、一定の海域でしか漁はできない。
梅雨がそろそろ終わったかどうか、もうこれは夏だろう、いやまだ梅雨だというような時期の数日間だけ、日本のある地方の小さな港から、人魚漁の船が出るらしい。
そして、漁が終わると、特別な魚屋にだけ人魚の肉が並ぶのだ。
これらの情報は、すべてタマの受け売りだ。
僕がこの下宿に住むようになったのは、今から4年近く前のことだ。大学進学で地方からやって来た。
下宿は1階が大家の老夫婦の住まいで、2階に4軒の貸部屋があった。トイレと台所は共同、風呂は近くの銭湯を利用する。
地域猫のタマは、黒猫だが、眉毛の部分と四本の足先が白くなっている。眉毛の部分が若干垂れていて情けない顔に見えるが、実はこの辺りの猫の親玉らしい。
出会いは大学2年になってすぐの頃、たまたま銭湯の帰りにタマに声をかけられた。
「おい、お前、大家の婆さんに、たまには菓子折りでも持って行け」
挨拶もなしに、突然そう言われた。
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