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 翌朝、わたくしが日の出前に正妃様の居室へ入りますと、壁から吊られた掛け軸の中には正妃様のお姿が戻っておりました。  正妃様はこの半年ばかりの間、掛け軸から抜け出ていたことなど素知らぬ顔で微笑んでいらっしゃいます。相変わらず牡丹の刺繍が美しい(じゅ)(くん)を身に纏い、その清艶(せいえん)なお姿は天女のようでございます。  わたくしは夜勤明けの女官と目礼を交わすと、衣装櫃から襦裙を取り出し、帯や肩巾と一緒に衣桁に掛けました。櫃の中の襦裙はすべて新しい物に入れ替えられており、これまで誰かが一度でも袖を通した形跡がある物はありません。化粧品も櫛も簪も、すべて新しい物ばかりが小物箱の中に並んでおります。  その後間もなく下女たちが運んできた朝餉は、わたくしたち女官に下賜されました。
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