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 後宮の最奥、()(たん)殿(でん)の中でも格別(ごう)(しや)な部屋が我が国を統べる国王陛下の御正妻・正妃様の居室でございます。  国中のみならず諸外国からも取り寄せた繊細で優美な調度品の数々が室内を飾り、絹や紗の襦裙(じゅくん)が櫃から溢れんばかりに修められております。(べっ)(こう)の櫛や銀の(かんざし)(さん)()の首飾りなどの宝飾品、(ぞう)()の扇に水晶の(ぶん)(ちん)()(でん)(さい)()が施された(こく)(たん)の文机といった最高級の品々は、すべて国王陛下から正妃様へ贈られた物でございます。  居間と寝室を区切るのは()(すい)で飾られた(つい)(たて)()(たん)(らん)()()(よう)もまた素晴らしく、一歩足を踏み入れるたび、溜め息をつかずにはおられないほど(ぜい)の限りを尽くした部屋でございます。  (はく)()の花瓶に生けて飾られているのは、四季折々の花々。王宮の庭師たちが丹精込めて正妃様のためだけに育てたものです。  そして、(いっ)(ぷく)の掛け軸が壁から吊られております。  そこに描かれているのは、国王陛下のご寵愛深い正妃様です。  艶のある黒髪を優美に結い上げ、薄紅色の生地に色とりどりの()(たん)()(しゅう)で飾られた襦裙を身に(まと)われております。()(すそ)から覗く絹の靴の先には宝石が縫い付けられています。絹の肩巾(ひれ)で口元を隠し、わずかに微笑むそのお姿はまるで天女のよう。  見る者誰しもが魅了されずにはいられない美しさを持つ正妃様は、いまにも絵の中から抜け出しそうなほど生き生きと描かれているのですが、残念なことに微動だにせず掛け軸の中に収まっていらっしゃいます。  この正妃様は国王陛下に嫁がれて間もなく、後宮に陛下の(しよう)()が両手の数ほどいることに(りん)()を起こされ、部屋に飾ってあった掛け軸の中に隠れておしまいになったそうです。  そんな正妃様を愛おしく思われた陛下は、妾妃たち全員に(いとま)をお出しになりました。
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