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玉麗は磨けば磨くほど美しく変身する玉でした。
正妃様から下賜された襦裙、裳、簪、首飾りなど、最高級の品々を身に付けても引けを取らない面差しで、他の女官たちもその美しさには文句のつけようがありませんでした。正妃様の部屋付き女官の名に恥じぬよう着飾ることも仕事のひとつではありますので、美しくすることは問題はありません。
ただ、掛け軸の正妃様よりも美しくあろうとし始めたことから、女官仲間たちの反感を買うようになりました。
「ねぇ、玉麗さんの今日の化粧をご覧になって? 白粉をあれほど塗りたくっては、せっかくの肌の白さが台無しではありませんこと」
「髪の結い方が斬新すぎるわ。あれでは結うのに失敗してあんな形に崩れたのか、わざとあの形に結ったのかが判別できませんわ」
「飴を頬張る顔など大層可愛らしいではありませんか。まるでひもじい子供が口に詰め込めるだけ飴を詰め込んだような顔ですわ」
皮肉と嫌味が陰口として囁かれましたが、玉麗はいっこうに気にする様子は見せませんでした。
ますます着飾り、鏡に映る自分の姿と、掛け軸の正妃様の姿を見比べては、どちらが美しいかとわたくしに尋ねてくる始末です。
「国王陛下は、なぜ生身の女ではなく掛け軸の中の正妃様を寵愛されるのかしら」
毎朝国王陛下がお帰りになった後、飽きもせず玉麗はわたくしに向かってぼやきました。
「悋気を起こした正妃様がこの掛け軸の中に入って出てこなくなったなんてふざけた話、本当にみんな信じているの? 正妃様の嫉妬を恐れて妾妃様たちは後宮を追い出されたって話だけど、本当に実家に帰った妾妃様はひとりもいないって聞いたわ。じゃあ、妾妃様たちはどこに消えてしまったのかしら」
大声で捲くし立てる玉麗の唇を指で押さえると、わたくしは黙って首を横に振りました。
万が一にも正妃様のお耳に妙な噂話が入ってはいけないからです。
「もしあたしが正妃様より綺麗だってことで国王陛下の目に留まったら、正妃様は悋気を起こして絵の中から出ていらっしゃるかしら。もし出ていらしたら、あたしは正妃様を絵の中から連れ出した功労者ということで、妾妃にしていただけるかしら」
玉麗はことあるごとに「妾妃になりたい」と呟いていました。
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