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三
正妃様の襦裙を身に纏い、正妃様だけに許された形に髪を結い、金銀の簪を髪に挿した玉麗は、まるで絵から抜け出た正妃様にそっくりの姿になりました。白粉を顔や首に刷き、紅を差し、眉を描きますと、まるで別人です。十代半ばの少女の幼さは鳴りを潜め、正妃としての妖艶さと威厳が彼女を輝かせます。どこで身に付けたのか、所作さえも女官のときとは比べものにならないほどたおやかです。
女官たちは皆、彼女を「正妃様」と呼びました。
朝餉の膳は掛け軸に供えられるのではなく、生身の正妃となった玉麗の前に並べられました。
もちろん、彼女は当然のような顔をして箸を手に取り、食事をします。
これまで下賜されていた膳はすべて彼女の口に入ってしまいました。
朝餉を済ませ、化粧を直していると、国王陛下が朝のご機嫌伺にいらっしゃいました。
陛下のお姿が見えますと、玉麗も座っていた椅子から優雅に立ち上がります。
「おはよう、正妃。今朝のご機嫌はいかがかな」
陛下が直々に声を掛けられますと、玉麗は目を細めて微笑みます。
そして、手にしていた扇でそっと口元を隠しました。
「大変よろしゅうございます、陛下」
玉麗の隣に一歩下がって立っていた最古参の女官が、代わりに返事をします。
すると陛下は満足げな表情を浮かべ、侍従が運んできた贈り物を女官に渡しました。
漆塗りの箱の中に入っていたのは、金箔で飾られた牡丹の花でした。どのように作ったのか、本物の牡丹そっくりの花びらや葉が金箔で作られています。
その見事さに女官たち一同は息を飲みました。
玉麗も一瞬目を大きく見開き唇を動かし掛けましたが、最古参の女官が襦裙の袖を軽く引いたので、声を出すことはありませんでした。
「なんと素晴らしい贈り物でしょう。正妃様は大層喜ばれていらっしゃいます」
最古参の女官が礼を述べると、陛下は嬉しそうに相好を崩されました。
そして、公務を執るため後宮から出ていかれました。
陛下の姿が回廊からも見えなくなりますと、玉麗は緊張がほどけたのか倒れ込むようにして椅子に座り込み大きな溜め息を吐きました。
女官たちもくたびれた様子で胸を撫で下ろしました。
正妃様の姿をした玉麗を、陛下はお気に召したようです。
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