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「あなたは、怖いことから逃げている。まるで子供ね」
「仕方ないだろ。霊視はリアルな体験と同じようなものだから、キツイんだよ」
霊視は、その場に立ち会ったようなリアルさで追体験することになる。
被害者の絶望と加害者の狂気。阿鼻叫喚と断末魔のうめき声。その後の静寂。漂う臭いまでリアルに体験する。
そんなことを言っているレイ自身が、自分のことを気にしていないのが不思議に思えた。
「レイだって殺されているのに、犯人を恨んでいるように見えない。無念じゃないのか?」
「覚えていないから、恨みも無念もない」
「記憶がないって、幸せだな」
口にしてから、ヨシタカは言い過ぎたと後悔した。
「ごめん。言い過ぎた」
「今のあなたは正常じゃないって分かっているから、気にしないわ」
「俺より大人だなあ」
言ってからヨシタカは気が付いた。
死んだときの年齢の姿だから子供に見えるが、生きていればおばあちゃんの年齢。老成していて何ら変じゃない。幽霊にも成長があるならばの話だが。
「もし記憶を取り戻したら、正気でいられないかもね」
レイが物騒なことを言った。彼女でも、真実を知れば狂った末に悪霊怨霊となるのだろうか。
「だったら、今のままでいいじゃないか。犯人捜しとか、失われた頭を捜すとか、全部やめて今まで通りここで暮らしていけばいい。何百年でも何千年でも」
それなら面倒なことをやらないで済むと、ヨシタカは考えた。
「この家だって、いつかは朽ち果てる。さすがにこの家が無くなれば、私もチョールもどこかに行かなければいけない。つまり、今ここにヨシタカがいるってことは、私に変われってことなのよ。大きな変化の波がすぐそこまで来ていて、そこから逃げてはいけなくて。多分、きっと、そうだと思う」
だとしたら、高塚愛虹の死は我々に何かを気付けと教えているのだろうか。
「どうやら俺は、彼女の魂を降霊して、死の瞬間を霊視することから逃げられない運命らしいな」
高塚愛虹は、殺された後でバラバラにされて遺棄された。ヨシタカの母と同じだ。
あちらの犯人は捕まっているので、今回の事件と関係ない。しかし、やり口が似通っている。
それだけではない。
この家で起きた惨劇。それも、家族三人が殺されてバラバラにされていた。
ザクロ邸の事件、ヨシタカの母の事件、高塚愛虹の事件。どれも何年も離れて起きているのだから犯人は別人。
でも、これら3つの事件に何らかの因果関係があるとしたら?
そのことがヨシタカに関係しているからこそ、アルルはここに差し向けたのではないか?
目に見えない因縁がヨシタカと事件を引き寄せている。
(そうなると、高塚愛虹が殺された原因は俺にあったのかもしれない。俺と関わったことで、彼女の運命の歯車は最悪の方へ進んでしまったんだ)
そう考えたヨシタカは、背中に冷たいものが走ってゾクリとした。
「大丈夫なの?」
レイが青い表情のヨシタカを心配する。
「覚悟を決めたらやるだけだ」
ヨシタカは、一人掛けの椅子に座ると心を落ち着けた。
チョールが足元でちょこんと座り、四つの目でヨシタカを眺めている。
ヨシタカの様子をチョールの目で見ていたレイが訊いた。
「これから何かするの?」
「高塚愛虹を降霊して、犯人を確かめる」
「今? 降霊って、初めて見るわ」
レイは、興味津々だ。
「ねえ、降霊中はどうしていたらいい?」
「黙っていてくれればいい」
「質問は出来る?」
「してもいいけど、返事があるかどうか分からないよ」
「分かった。お利口さんにしている」
レイは、チョールを抱き上げると近くの椅子に座って降霊を待った。
ヨシタカは、目を閉じると精神集中して高塚愛虹の霊に呼びかけた。
目の前に、彼女が死に至る場面が再現される。
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