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過労の日々
殺人犯を調べるのが自分の役目と分かっていても、具体的に何をどうすればよいのかさっぱり分からなかったヨシタカは、学校と新聞配達とフードデリバリーをグルグル回るだけの無為な毎日を過ごした。
レイと話し、たまにアルルと話し、チョールは微妙な距離を保ちながらヨシタカを見ていて、ちょっかいを出しては逃げられていた。
新聞販売店での社長や同僚榎本との会話は、仕事関係に絞って必要最小限に済ませた。話せば色々と詮索されるのでそれを嫌った。ザクロ邸に住んでいることは絶対に秘密。ぼろを出さないためにも必死だった。それに、フードデリバリーの稼ぎをもっと増やしたくて、新聞配達を早く切り上げることに全力を尽くしていた。
ザクロ邸にいつまでもいられるはずがない。寝床が確保できている間は、ネカフェを探す労力を労働に振り向けられる。今のうちに出来る限りお金を貯めておこうと思った。
フードデリバリーの仕事は、誰とも話さなくていい。ヨシタカには都合が良かったから、翌日のことも考えずに深夜まで稼働した。
高校でも、誰とも話さずに過ごした。
ヨシタカが教室に入っても、誰も関心を示さない。黙って席につき、昼休みは図書室に籠った。授業が終わると、即座に教室を飛び出した。誰もヨシタカを見ていなかった。
毎日働き詰めのヨシタカは、フラフラになっていった。そんなある日、ふと変な考えが頭をよぎった。
ザクロ邸ではまあまあ楽しく過ごせているが、レイもチョールもアルルも霊魂。あそこで生きた人間は自分一人。まず、この状況が異常である。
高校では、存在感無し。誰もヨシタカを見ようとしない。これは入学直後からである。
新聞販売店では、社長も榎本も、ヨシタカが出入りしても反応なし。
フードデリバリーも、ピックアップから置き配まで誰とも話さない。下手すると目すら合せない。
「もしかして、俺ってすでに死んでいない?」
自分は、生者の中に紛れ込んだ死者で、まだ生きていると勘違いのまま、生前と同じ日常生活を送っている、実は幽霊なのではないか。
高校で授業を受けているつもり。新聞配達をやっているつもり。フードデリバリーをしているつもり。本当は何も起きていなくて、何も変わっていない。全部やっているつもり。
「もしかして、そういうこと?」自分で考えてゾッとした。
しかし、そんな考えをくだらないと吹き飛ばすかのように、自分は生きていると実感する出来事が身の上に起きた。
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