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高塚愛虹の事件後、ヨシタカはザクロ邸に閉じこもり、学校も新聞配達もアーバンイーツも行かないで、生きる屍のような顔付になって幽霊のような生活を送っていた。
彼女との関係で変わるかと思われたヨシタカの日常は、結局何も変わらなかった。少しだけ受けられた非日常の刺激は、ヨシタカの何かを変えるほどではなかった。それでも、何故か心のどこかにぽっかりと穴が開いている。
焼きそばパンを差し出す彼女の姿が、目に焼き付いて離れない。
「いつもそうだ」
幸せになりそうだと思うと、それを打ち消すように大きな不幸が訪れるのだ。
暖かな家庭で両親と笑いあっていた幼少期の日々。ある日、全てを奪われて一人ぼっちになった。
「俺は疫病神なんだろうか?」
暗い家の中で、毎日鬱々と過ごしているヨシタカにレイが話しかけた。
「最近、元気がないわね。学校にも仕事にも行かなくなって、何かあったの?」
「幽霊にも同情されるなんてね。俺、死相が出ていないか? もう死ぬのかも」
「まだ死相は出ていない」
「あ、そう……」
レイの自虐ボケ潰し。
「何をそんなに落ち込んでいるのよ」
「大切な人が亡くなった。これが落ち込まずにいられるか」
「大切な人なんていたんだ」
カチンときたが、幽霊相手に熱くなるのもバカバカしい。
ヨシタカは、努めて冷静になる。
「いたさ。唯一の友人……になったかもしれない人。誰かに殺された。殺されてバラバラにされて捨てられて……」
故人を侮辱するようで、口にするのも憚られる。
「犯人は分かっているの?」
「分からない」
「ヨシタカが捜してあげれば?」
「俺が?」
「そうよ。やらない理由なんてある? その友人は、殺されて悔しい思いをしているでしょう。あなたが犯人を捕まえて、その子の無念を晴らしてあげなさいよ。友達だったんでしょ?」
幽霊なのに、ド正論を吐いてくる。
「……直視できない」
「え?」
「犯人を捜すには、彼女が殺された瞬間を霊視する必要がある。それが怖い。彼女の苦しむ姿を見たくないんだ」
高塚愛虹が苦しんで死ぬ瞬間や、バラバラにされる場面を霊視するなんて、精神的に耐えられる自信がない。
ヨシタカは、母が殺される一部始終を霊視で見ていた。死の間際の苦しみ。意識があるまま死んでいくことに慄く母。顔が土気色に変わり、瞼を閉じる瞬間まで。正視に堪えない残酷な光景。
その後、死体はバラされた。バスタブに無造作に突っ込まれて、頭の上に脚が乗っかって、血まみれの右手がバスタブからはみ出ていて、「こっちにおいで」と呼んでいるようだった。見たことを後悔するには充分だった。
同じような光景を高塚愛虹でまた見ることは、とても辛いことだ。
「ああああ……、おええ……」
今でもその情景を思い出すと叫びたくなり、その後に吐き気を催してしまう。体が拒絶反応を起こす。
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