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真っ暗闇の中、僕は膝を抱えていた。
この地下に閉じ込められてから一体、どれほどの月日が流れただろう。
身じろぎもせず、声も出さず、ただひっそりと生きてきた。気づけば僕はここにいた。生みの親の顔すら知らない。でも、不思議と心細くはなかった。食糧や温かい寝床に不自由はしなかったし、何より――
「いよいよだな、相棒」
声がした隣を見れば、同じ境遇を生き抜いた仲間がいる。
「そうだね、でも」
「でも、何だ?」
「いや、本当にあるのかな?」
僕は天を仰いだ。
「外の世界って」
一抹の不安を拭い切れない僕に、仲間は笑った。
「大丈夫だって、外の世界はきっとある!」
「それによ」と、仲間は付け加える。
「一週間前にここを出ていったやつが言ってたじゃねぇか『この上に絶対出口がある』ってな。あれから何の音沙汰もないのが、あいつが上手くやったって証拠だ」
「そうだね……きっと上手くいくよね!」
「当たり前だ、俺と相棒に不可能なことなんて何もない!」
仲間は上を見据えた。
「じゃあ、まずは俺から行くぜ」
仲間は目には見えない壁を伝い、器用によじ登っていく。僕も後に続いた。頭上には無数の固まりが行く手を阻んでいるが、何の問題もない。力をつけた僕達の前では、柔らかい布団のようなものだ。
「そう言えばよ」
かなり進んだところで、仲間が振り返った。
「外の世界に出た時の第一声、相棒は何にするか決めたのか?」
訊かれて頷いた。
「決めたよ、君は?」
「俺も決めたぜ。腹の底からぶちかますのに、もってこいのやつをな」
「奇遇だね、僕も叫んでやろうと思ってるんだ。お互いにどんな第一声なのか楽しみ……あっ!」
「うおっ、びっくりした! 急に大声出すなよ、気が早いぞ相棒」
「ごめんごめん、それよりもアレ見てよ!」
僕が指し示した方向に目をやった相棒が、
「まじか……!」
震えるような声を出した。はるか前方に浮かぶ曲がりくねった蛇のような亀裂が、見たこともないような色で輝いている。
「もしかしてあれが噂に聞いてた光ってやつか? だとしたら」
一呼吸置いてから、仲間は叫んだ。
「出口だ!」
仲間はがむしゃらに進み始めた。僕も再び全身に力を込める。
「あともう少し、もう少しだ! 相棒!」
「そうだね! これでやっと外の世界に!」
壁を蹴り、障害物を押しのけ、ただ必死に仲間の背中を追い続けた僕は、次第に輪郭を帯びてきた溢れ出る光の中へと飛び込んだ。次の瞬間、強烈な刺激に思わず顔を背けた。
「わっ、何だこれ! 何も見えない!」
数秒後、目を貫いた痛みが和らぐのを感じた僕は、恐るおそる前を向いた。
「すごい……」
目の前に広がる光景に、息を呑んだ。
長かったり、丸かったり、硬そうだったり、痛そうだったり、美味しそうだったり。
外の世界は、自分の背丈を遥かに超える、名前も知らない存在で溢れかえっていた。
どれも黒色ではない別の色に染まっていた。
「おーい、こっちだー」
声がした方向に視線を移すと、仲間が何かをよじ登っていた。
まだ登るのか。と内心嘆息しつつも、僕も仲間と同じようにしたい衝動に駆られた。
不思議に思いながらも触れた何かは、優しい温もりに包まれていた。誘われるかのように、一歩一歩上を目指す。
ふと、背中に感じた違和感に足を止める。熱を持った全身が膨らみ始める錯覚に陥った。不安な気持ちに押し潰されそうになるも、
「大丈夫、俺と相棒に不可能なことなんて何もない!」
いつの間にか隣にいた仲間の励ましに、僕はすぐに冷静さを取り戻した。
「たぶん、体が外の世界に適応しようとしてるんだろ。直に収まるさ、それよりも相棒」
促され、大きく頷いた。
「待ちに待った第一声、解禁だね!」
「おうよ! じゃぁ、せーので言うぞ」
「うん! 分かった!」
僕達は深く息を吸い込み、声を揃える。
「せーのっ!」
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