プロローグ

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プロローグ

気怠い身体を横たえて、私は微睡んでいた。 凄く眠い訳じゃないけど、起き上がる程の元気もない…… ベッドの軋みで隣りの気配に気づいた。 「シャワー浴びて来る」 全裸の背中を見せながら、ゆっくり浴室に向かう男をぼんやり見送る。 またうとうとしてるとシャワーを浴び終わって男がバスタオルを腰に巻いて出て来た。 直ぐワイシャツを纏い、スーツを着始めたのも何時もの流れだ。 「じゃあ……行くから」 言葉少なくドアが閉まった。 暫く閉まったドアを見つめていた。 私はこの時間が一番嫌いだ。 ついさっきまで、彼に抱かれて多幸感に酔っていた。 今はどうだろう、私は独りベッドに残されてる。 私はいつもこの男の背中ばかり見てる気がする。 私を置いて独り帰る彼の背中。 彼がこれから向かおうと嫌帰ろうとしてる先は……? 彼の家、そう妻と暮らす家なのであろう。 絶対に泊まらないのは彼の哲学か、はたまた彼の美学か。 どんなに、遅くなっても必ず帰るのだから……。 妻が待って居るであろう……彼の家に。 彼が事後に必ずシャワーを浴びてから帰るのはきっと匂いを残さない為だよね。 私との痕跡を徹底的に洗い流そうとしてる様でそれが私には何だか哀しくて切なかった……。   対照的に私は彼の匂いを洗い流したくなくて、敢えて今はシャワーをしたくなかった。 彼が泊まらない事がどんなに虚しくて、寂しいと思っているかなんて彼は判っていないと思うわ……。 今日もこの部屋に一人置いてかれちゃったな。 一人で愚痴ってグダグダしてるのは私らしくないから、家に帰ろうと決めた。 身体は気怠いが、思い切って起き上がり私は手早く服を着始めた。 スーツに身を包み、ヒールのパンプスを履いたら、ほら、いつもの私の完成。 同じ一人なら自分のアパートに帰る方がずっといい。 私は勢いよく、ホテルのドアを開け足早に歩き出した。
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