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プロローグ 出動
現代日本の首都、東京。なにか起こったのか騒然とする中、一台の黒い車が停まり、中から黒の膝までのコートを羽織った一人の男が降りてきた。
大勢の野次馬達を睨みつけて、溜息を吐いた。
人の波を掻き分けて、黄色いテープが張られた最前列まで進んだ。
周囲の警備をしている制服警官に、懐から取り出した警察手帳を見せた。
「お疲れ様です」
テープの中に入った男は、鋭い視線を向けた。
「状況は?」
「犯人を捜索しているのですが、なかなか見つからないんです」
男は制服警官から、犯人の特徴を聞き出し、現場周辺を歩き始めた。
道を歩く人は捜査員くらいしかいなかった。
――どこか隠れ家でもあるのか?
男は建物に視線を向けると、窓が割られたオープン前のスナックを見つけた。
どうして、窓が割られているんだ? と思いながら中に入る。
硝子の破片を踏んだ音がやけに響いた。
警戒を滲ませながら、歩いていくと、そこには血塗れの犯人がいた。
「ちっ! 捕まるわけにはいかないんだ!」
暗がりから鮮血に染まったナイフを手に、襲い掛かってきた。
めちゃくちゃに振るわれるナイフを躱し続けていたが、動きを止めようとして、左手を突き出した。ナイフがざっくりと掌を切り裂いた。
「逃がすわけがないだろう」
男は低い声で言い放つと、右手で犯人の腕をつかみ、足払いをかけた。
すっ転んだ犯人に手錠をかけ、表まで連れていく。
近くを通りかかった制服警官に犯人を預けると、現場を後にした。
男は持っていた青のハンカチで、左手の傷を覆った。それを握り締めながら、黒のセダンのドアを開けた。右手にスマートフォンを持ち、どこかへ電話をすると、警視庁に向かって車を走らせた。
男の名前は、獅乃鬼柳。身長は一八〇センチほどと高く、見た目は二十代後半。癖のある黒髪は首までの長さ。ハンドルを握る指は節くれ立っていて長い。眉間にしわを寄せても、自然だと思えるような、吊り上がった目に、少し高めの鼻梁と、薄い唇。シャープな顔立ちをしている。白のワイシャツに少し緩められた黒のネクタイを締めていて、黒のスーツに同色の革靴を履いている。
人を寄せつけない雰囲気を放っているため、周囲からは見た目は素敵だけれど、どこか怖いというイメージが定着している。
しばらく車を走らせ、駐車場に停めると、捜査一課へ向かった。
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