15人が本棚に入れています
本棚に追加
「あつっ!」
もう冷めただろうと思って一口飲んだ滝坂は、予想以上の熱さに顔をしかめた。
「ふふ。見た目と違って、意外とせっかちなんだね。それとこれ」
涙目になりながらそれを見た。指でつまめるくらいの正方形のチョコレートだった。
「ありがとうございます」
「お気に入りなの。どうぞ」
言われるままに一粒手に取って、パクリと食べた。
一度噛んだ瞬間に口の中に広がる苦みを感じて、慌てて口を押えた。
「なにコレ!? 苦い!」
滝坂は慌ててカップをつかんで、二回ほど息を吹きかけてから一口飲んだ。
「……これがチョコですか」
一息ついてから、ようやく言えた。
滝坂は不機嫌そうな顔をして瀬奈を見た。
声を必死に抑えながら、肩を震わせて笑っていた。
「ふふっ。……あははっ! あなた、面白い!」
「どうしてこのような真似を?」
笑い続けていても気にせず、怒りを滲ませて滝坂が尋ねた。
「あ~、ここまで笑ったの久し振り。それと、ごめんね。女の子に会ったらやってみたかったことなんだ」
話を聞いていると、滝坂の顔に困惑の色が浮かんだ。
「……な~んてね」
「あ~……もう」
クスッと笑って誤魔化した瀬奈に、滝坂は一気に脱力した。
「これ、カカオ九十五パーセント入ってるからね~。ココアとの相性も抜群なのよ。徹夜明けの検視の後に、こうやって一人で労を労っているというか」
――そんな極端なもの同士を、組み合わせなくてもいいじゃない。
「瀬奈さん、ココア以外は、飲まないんですか?」
滝坂は内心とは違うことを尋ねた。
「飲まないよ。あんまり好きじゃないし。あれは一緒にお茶を飲んでくれる人用。滅多にいないけど」
――見た目と違って、とんだ変わり者ということか。
「今回の遺体、なにか思うところはありましたか?」
溜息を吐きながら、滝坂は質問を続けた。
「あたし個人としてってこと?」
先ほどとは別人のような真剣な眼差しを受け、滝坂は先ほどまでとのギャップに驚いた。
うなずくと、瀬奈の視線は宙へと向けられた。
「正直、怖かった。犯人と被害者に対してね。腕を切り落とすかのような、数多くの傷痕。そこまでの苦痛を強いられても、逃げなかった被害者。どうしてそんな選択をしたのかしら。しかも、まだ若い子なのに……」
最初のコメントを投稿しよう!