第一章 執念が伝わってくる遺体

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「そう、ですね」  珍しく滝坂は、歯切れの悪い返事をしてしまった。 「あ……ごめん」  遺体の状態を思い出したのかと思って、すぐに謝った。 「いえ、獅乃とは知り合いなんですか?」  これ以上この話をするのはまずいと思い、話を切り替えた。 「まあね。でもなんで、今回はあなたに代役を頼んだの?」  ――それは私も知りたい。  滝坂は聞かないでよと思いつつも、口には出さなかった。 「これ、あたしの連絡先。気が向いたときでいいから、連絡してね~」  突然目前に突き出されたスマートフォンに驚いて、滝坂は少し身を引いた。  押され気味な滝坂だったが、連絡先の登録をすませた。 「そうそう。あなた、下の名前って麗那でよかったっけ?」 「ええ」 「じゃあ、麗那ちゃんって呼ぶね」  にっこりと笑いながら、とても嬉しそうに言う瀬奈に、疑問ばかりが募るが、それを聞いてはいけないだろうと思い口を噤んだ。  二人の会話を妨げるようなタイミングで、ノックの音が響いた。 「はい」  先ほどとはうって変わって、低い声で応じる瀬奈に驚きながらも、滝坂は無表情を装った。 「三日前に発生した、焼死体の検視結果は?」  高圧的な態度でズカズカと部屋に入ってきた、図体のでかい男性警察官が瀬奈を睨んだ。 「そう急かさなくても。ちゃんと渡すっての」  動じることなく、さばさばとした口調で言った。デスクの右端に置いてあるブックスタンドから、複数あるクリアファイルをざっと確認した。その中からひとつを抜き出して、男に突き出した。 「もっとキビキビ動けよな」  背を向けた男は舌打ち混じりに吐き捨てると、さっさと部屋を出ていった。 「やっぱり、ああいうの嫌いだわ~」  背伸びをしながら瀬奈がしみじみと言った。 「同感です」  ココアを一口飲んで、滝坂が同意した。 「麗那ちゃん?」  滝坂の表情は険しく、視線の先には先ほどの、男性警察官が出ていったドアがあった。  ちょんと眉間を突かれた。 「なにするんですか!」  滝坂は肩をびくりと強張らせて、声を上げた。 「ちょっと気づかせてあげようと、思っただけだよ? そんな難しい顔をするのは、獅乃君だけで十分だってば」
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