15人が本棚に入れています
本棚に追加
「よく食べれるわよね」
デスクに置きっ放しの茎わかめの袋を見たのだろう、呆れた声だった。
獅乃は思わず苦笑した。
「……怨恨か?」
話を聞いた獅乃が尋ねた。
「それと、これ」
バッグから出された紙がデスクに置かれた。
写っていたのは、刃渡りに十センチの鞘で保管するタイプのシースナイフ。
獅乃はジッポライターを置き、じっと見つめた。
「犯人は犯行時、冷静だったんじゃないかしら?」
「いつからそう思っていた?」
獅乃が低い声で尋ねた。
「え。遺体を見たときからだけれど」
「そうか。俺もそう思った」
獅乃は遺体の状態を思い出し、不快感をあらわに吐き捨てた。
「あと、これも見て」
差し出されたのはクリップで留められた資料。
「これは……!」
獅乃は内容を確認して、瞠目した。
写っていたのは、遺体の背中のカラー写真だった。
「両腕と同じ。いいえ、それよりも……」
――最後まで言えなくても仕方ない。
獅乃は写真を見ながらそう思った。
ナイフを刺したまま、強引に切り裂いたと思われる傷が、右肩から腰のあたりまで、斜めに走っていた。その周りに、切り傷や刺し傷が、背中を埋め尽くさんばかりに刻まれていた。
「被害者は、なにかを、庇おうとしたんだな……」
被害者の強い想いを感じ取った獅乃は、きつく唇を噛んだ。
写真の下側に文字が見えた。
『遺体の状態からして、死後二日は経過している。遺体発見現場に、血痕などの形跡がないので、殺害現場が別の可能性あり』
獅乃はジッポライターを仕舞い、ボールペンを手にして、手早くメモをした。
書き終えるとボールペンと手帳を仕舞った。
閉じた手帳の隙間から、なにかが床に落ちた。
獅乃はそれに気づかず、席を立って歩き出した。
「ちょっと待って」
その声が聞こえたのか、獅乃が振り返った。
「これ」
差し出されたのは、紅葉を押し花にした栞。
「……じゃあな」
それを見た瞬間、獅乃は思わず顔をきつく歪め、詰めていた息を細く吐き出した。
それだけ告げると、鞄に仕舞ってそそくさと出ていった。
最初のコメントを投稿しよう!