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「なに、あの電話!」
怒りをあらわにするのは一人の女性。
彼女の名前は滝坂麗那。獅乃の相棒だ。身長は一五〇センチほどで、獅乃と同い年。しかし見た目は二十五歳くらい。癖のない茶髪は肩までのセミロング。大きめの目で低い鼻、明るい色合いの唇。緊急招集がかかることも考慮して、肌色を補正する程度の薄化粧だ。
少し丸みを帯びた輪郭なので、年齢よりも幼く見えてしまう。それが、彼女が抱えるコンプレックスのひとつ。紺のパンツスーツに、白のカットソー、黒のパンプス。ジャケットのボタンは留めている。警視庁刑事部捜査一課殺人犯六係所属。ノンキャリアで、階級は巡査部長。
「怒るようなことか? 報告をしただけだが?」
「なんで、怪我してくるの! ほら、さっさと手を出して」
滝坂のデスクには、救急箱が置いてあった。
「はあ……」
左手を突き出し、ハンカチを退けた。
「そんなに深くないけれど、ハンカチだけじゃ無理でしょうに」
滝坂は言いながら、傷にガーゼをあて、包帯を巻きつけ、端をぎゅっと縛った。
「そうかもな。これくらいなら、医者にいかんでもいいだろう。取り調べにいってくる」
「あ、ちょっと!」
引き留めようとする滝坂を無視して、獅乃はボールペンとノートを手に、取調室に向かった。
取調室には、犯人が制服警官とともに待っていた。
積極的に動くのは殺人事件だけ。関わった中で獅乃が解決したものはない。
――命が奪われる。とても身勝手な理由で。しかも、犯人がのうのうと生きている。赦せるわけがない。俺は、一人でも多く犯人を捕まえ、犯人に突きつけてやりたいのかもしれない。犯した罪からは逃れようもないのだと。
警視庁内では「変わり者」や「傍観者」と言われているせいか、できることが限られてしまっている。俺ができるのは、犯人を逮捕して、最初の取り調べまでだ。手柄を奪われるのが嫌な奴もいる。
「あなたの取り調べを行う、獅乃です」
獅乃はそこで言葉を切った。
犯人は俯いたままだ。
「西蓮二さん」
再度声をかけると西はゆっくりと顔を上げた。目には生気がない。
西の現住所、工場で働く作業員であることを確認した。
「あなたは昨日の午後十時ごろ、どこでなにをしていましたか?」
「……ちょうど電車を降りて、歩いて帰宅していました」
獅乃が駅名を告げた。
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