プロローグ 出動

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「そうです」  西ははっきりとした声で答えた。  スーツの胸ポケットから、一枚の写真を取り出して、机に置いた。 「この女性に見覚えがありますか?」  写真の女性は二十代前半。黒のショートヘアーで、ごく普通の顔立ちをしている。 「……いいえ」 「被害者の女性です。搬送先の病院で死亡が確認されました」  西は目を見開いたまま固まっている。 「目撃者の証言によると、血を流した女性が倒れていて、あなたが血のついたナイフを持っていた、とのことでしたが?」  低い声で告げると、制服警官に肩を叩かれた。 「先ほど、凶器に付着した指紋があなたのものだと判明しました。この女性を殺しましたね」 「……誰でもよかったんです。殺せれば」  重苦しい沈黙を破って、西がぽつりと言った。 「そんな理由で、奪っていい命はない。人は決して一人では生きられない。被害者遺族は、二度と癒えることのない、悲しみと憎しみを抱えたまま、生きていく」  そう低い声で言い放った。 「それが、なんだというのですか」 「なんだと?」  ぶっきらぼうに聞き返した。 「ごく普通の生活に飽きていたんです。なにか、変化がほしかった」 「それで?」  先ほどよりも低い声で、先を促した。 「当時考えていたのは、自分の欲求を満たすことだけでした。……刺した瞬間、あの女性はわけか分からないという表情を浮かべて、泣いていました。あの瞬間を思い出すと、また見たいなあと思ってしまいます」  その言葉を聞いていたが、溜息を吐いた。 「ナイフを抜いた瞬間、落ちたスマートフォンを取ろうと這って動いている姿が、とても愉快でした。後は……」  その様子を見ていないのか、西は言葉を続けた。 「もういい。黙れ。貴様はやり方を間違えたんだ」  獅乃は低い声で吐き捨て、西を睨みつけた。  西の目は爛々としており、口許(くちもと)には笑みすら浮かべている。 「罪を犯した自覚がないのか。自分の欲望を叶えるためだけに、他人を殺してもなんとも思わないわけか」 「だったら、なんだというんです?」 「貴様は狂っている。一線を越えてもなお、なにも思わないとは。誰からも理解されないだろうよ」  そう言い放つと、ボールペンとノートを持って、取り調べを終わらせた。
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