第一章 執念が伝わってくる遺体

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 バッグを開けて、入っていたボールペンを手に、さらっと走り書きをした。  ――これでよし。  内容を確認して、ほんの少し笑みを浮かべた。  メモを刀川にデスクに置いた。なにかの拍子で飛んでしまうかもしれないと思い、置いてあったペン立てをのせた。バッグを持って出ていった。  滝坂は獅乃の代わりに監察医(かんさつい)の許へ向かった。  昨夜確認したメールの文面を思い出す。  簡素だが、この事件の検視を務めた監察医の苗字しか記載されていないことには、文句のひとつでも言ってやりたいところだ。  ――それがなかったら、分かりやすいって思うのに。  車を停めて、建物内部を歩きながら、指定された部屋の前でドアを叩いた。  どうぞ~、と疲れ切ったような声に顔をしかめながら、失礼しますと言いながら、ドアを開けて部屋に入った。  室内は、真ん中に大きな四角いテーブル、その周りに四脚の丸椅子。奥には広めのデスクとキャスターつきの椅子が一脚。さらに奥には、横長の茶色いソファがひとつ。  出入り口のドア側には、上に備えつけられた両開きの棚、ちょっとした作業スペースとシンク。その下にも棚があり、ふたつあるうちの片方の取っ手にはタオルがかけられている。奥には小さめの冷蔵庫があり、その上には正方形で青いスポンジ素材のマットが敷かれている。マットの上には、花柄やドット柄などのマグカップがふたつ置かれていて、スプーンも同じ数だけ置いてあった。 「あ! 女の子だ~!」  先ほど聞いたテンションが下がり切った声は空耳かと思うくらいに、歓声を上げた。  ――女の子って言われるような、歳じゃありません!  というツッコミをしないように抑えつつ、探るような視線を向けた。 「代わりが女の子だって、言ってくれればよかったのに。獅乃君の意地悪~」  口を挟む間もなく、愚痴を言い始めた。  目前にいる人物は、キャスターつきの椅子に、足を組んで座っている。身長は一六〇センチくらいか。若干たれ目で、少し高めの鼻梁、薄い唇。頬を少し膨らませているのに、同性でも綺麗だと思えてしまうほど、美しい顔立ちをしている。血色がよく見えるくらいの少し濃い化粧で、ダークブラウンの髪は腰までの長さ。背中のあたりにある紺色のシュシュでふんわりと(まと)めている。黒のカットソーの上から膝までの白衣を着ている。膝下あたりまでの薄いグレーのスカートに、黒のヒール。見た目は三十五歳くらいか。
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