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――なんだ、この人は。待って、獅乃君? ……獅乃と知り合いだったの!?
滝坂は尋ねたい気持ちを必死に抑えた。無表情を装いながらも、頭の中が疑問でいっぱいになってしまった。が、話さねばと思い、口を開いた。
「……あの」
「なあに?」
「警視庁の滝坂と申します。監察医の瀬奈さんでしょうか?」
「そうだよ~。うん? あなたが知ってるの、苗字だけ?」
瀬奈が首をかしげた。
「自分勝手な人が、苗字だけ教えてくれたので」
「その人は、面倒くさがりだね。きっと」
言わんとしていることが伝わっているようだが、軽い口調で返してきたのに対し、
――察しはいいみたいだけれど、この脱力感はなんだろう。
内心でそんなことを思いつつ、瀬奈の声で現実に引き戻された。
「あたしは瀬奈朝実。よろしくね」
「よろしくお願いいたします。早速ですが、昨夜発見された二十代前半の男性と思われる遺体の、検視結果を見せていただけませんか?」
滝坂が言うと、瀬奈は少し顔をしかめた。
「あ~、それね。ついさっき終わったとこ」
抽斗からクリアファイルを取り出した。中身を確認してから、滝坂に身体を向けて、差し出した。
「ありがとうございます。私はこれで」
受け取った滝坂は、手早くバッグに仕舞って、背を向けた。
「ちょっと、お茶飲んでいかない?」
「え?」
滝坂は振り返って、思いっきり頬をヒクつかせた。予想もしていなかった一言だった。
「なんか、いろいろ聞きたそう……。ちょっと違うか。ん~、いろいろと言いたそうな顔をしてたからね。少しくらい遅れたって、平気でしょ?」
「まあ、はい……」
あまりに押しが強いので渋々うなずいた。
滝坂は丸椅子に座らされた。
「ちょっと待ってて。あ、なに飲む? ココアにミルクティー、温かいお茶とかあるけど」
「ココアでお願いします」
「ホット? アイス?」
「ホットで」
「偶然ね、あたしと一緒」
スプーンの入ったマグカップふたつを持ってきて、滝坂の前に置いた。
「熱いから気をつけて」
「ありがとうございます」
言いながらカップを両手で持ち、口許へ近づけると数回息を吹きかけた。
どこかからか取り出した掌サイズの小さな器になにかを入れて、テーブルに置いたのを見ながら、滝坂は内心で首をかしげた。
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