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『調査時間が終了する。直ちに帰還せよ。』
私のヘルメット内のイヤホンから、調査隊の本部から帰還命令が入りました。
私は城と都市に別れを告げ、浮上を始めました。青い世界を時々振り返ります。
水深100メートルに近づいた時、私はダイバースーツと液体を通して響いてくる音を聞きました。クジラに似た声です。
私は声のする方、頭上を見ました。
「!! 」
私の身長の十倍ほどの大きな影が地上からの光を遮りました。
それはクジラに似ていてますが、角がありました。
大きな尾びれを動かしてゆっくり泳いで行きます。
オオオオ。ボオオオオ……。
鎮魂歌のような悲しい歌声ーー。
ずっとそれを歌いながらその生物は暗 黒の海底に姿を消しました。
その後、私が地球に帰還してから3年後ーー。
私がマッピングしたデータやサンプルを元に、国営の調査団による潜水艇での詳しい調査が進められ、『サイレント・ドリフト』の海底都市の事が新たに分かりました。
彼らは海底に住む高度な文明を持った種族で、500年くらい前まで王権制の国家で科学を発展させていました。
しかしある時彼らは滅んでしまいます。その理由は海底火山の噴火と隕石群の襲来でした。
実はもともとこの海は地下にあったのではなく、この星全体が海であったのです。
しかし隕石群が襲来しそれが海底に衝突し、それによりこの星に数ある海底火山が何らかの形で著しく活発になり、大噴火し、マグマが特殊な固まり方をして、現在の星全体を覆う地殻になったのでした。
私が始めに見た長い柱はマグマが水面に向かって飛び出した時の名残だったのでしょう。また、都市から離れた所にも隕石の落ちた跡がたくさん見つかりました。
これで都市に衝突していないのが不思議です。 かといって、都市の住民は助かるものでもありません。隕石は高熱なので、それが海に落ちると海は一瞬で沸騰してしまうのです。それに噴火の時には有毒なガスが出ます。
つまり都市の住民もその他の生物も、どの道その強大な力を前にして生き残る事は不可能だったのです。
そうして最終的に守りに強く作られた都市だけがどうにか形を残したのでした。
天変地異による種族の絶滅と言う残酷な運命。しかし、星にとってはその一生を終えるまでの人生の一部に過ぎないのです。
最後に私はとある調査結果を聞き出しました。私が以前の調査の帰還中に見たあのクジラのような生物の事です。
残念ながら、今回の調査で発見されなかったそうです。
「お前は霊感があるみたいだな。それ都市で死んだ奴の霊かもしれないぞ。魂取られなくてよかったな。」
国営調査団の友人からはそうからかわれました。
本当に何なのか私にはわかりませんが、あの生物は何かの役割を果たして消えたのかもしれません。もしくは前向きな考え方をするならば、全てが解明されたらつまらないから謎解きのピースを一つだけ残してくれたのかも、とも思います。
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